それなのに。

「あ。あー忘れてたっ!僕今日辺り出発しないと、“雪蛍の雫花”、手に入れられなくなるじゃないですか!」

 何で思い出してしまうんだろう。

 すると、聞いた事がないという表情でリムが聞いてくる。
「“雪蛍の雫花”?」
「……雪蛍というのは名の通り、雪の降る地に生息している蛍なんです。雪蛍はこの時期になると、美しい結晶を作り出すんですが、結晶は非常に熱に弱くて、 人が触れると雫になってしまうんです。でも、その雫を受けてのみ咲く花があって。それが“雪蛍の雫花”と呼ばれているんですよ」
 フォリシスの説明に付け加えるように、今度は大賢者が口を開く。
「その花は魔術道具≪マジック・ツール≫として使えるんでの。何せ魔人がココを派手に吹き飛ばしてくれたおかげで、今まで集めた薬草や何かは、 全部一から集めんといかんのでな」
 大賢者はやれやれといった感じだ。

「……という訳で、折角来て頂いたのに申し訳ありませんが、僕は……」
 本当に申し訳なさそうに言うフォリシスに、リムがある提案をしてきた。
「あの、では私も付いて行ってもよろしいでしょうか?」
「え」
 すると間髪入れずに大賢者は賛成する。
「おう、それがいいわい。何、どうせ二〜三日。危険な道行でもないしの」
 その言葉に慌てるのはフォリシスだ。何せ、道中リムと二人きりという事になるのだから。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ、お師しょー様!そんな簡単に……」
 するとリムが躊躇いがちに口を開く。
「あの……ご迷惑、でしたか……?」
 その表情は少し沈んでいて。
 フォリシスは胸が苦しくなる。

 こんな表情、させたくない。

「迷惑なんかじゃないです。あの……リムさんさえよろしければ……一緒に来て、頂けますか……?」
「……はい、喜んで」
 そうリムが微笑むのを見て、フォリシスは嬉しくなる。

 その様子を傍から見ていた大賢者は、内心やれやれと思う。

 本当に手の掛かる馬鹿弟子だわい。


 朝食を終えると、フォリシスはすぐに出発の準備に取り掛かる。
「ではお師しょー様、行ってきます」
「途中にも薬草や何かはあるハズだからの。採取を忘れるでないぞ」
「分かってますよ……では、二〜三日で戻ります」
「リムさん、このバカ弟子をよろしくお願いしますの」
「……はい」
「……一言多いですよ、お師しょー様」

 こうしてフォリシスとリムは孤島を出発した。