第三章〜北東の孤島〜


 ヒューレ山脈を越えると、そこには雪の大地が広がっていた。
 この辺りは一年の殆どが、雪に覆われている。
 その為か山を降りきった所に、宿屋も兼ねた防寒具を売る小屋があった。


「久々のベッド〜!ふかふか……♪」
 今日はここで休む事にして、神無は部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。
「もう、神無さんったら……」
 苦笑するリムに、神無は急に思い立ったように顔を上げる。
「あ、ねぇリム。急に山越えだの野宿だの続いたけど、平気だった?」

 何しろリムは目が覚めたら記憶喪失で。
 直後に山越え、戦闘、野宿の繰り返し。道中もずっと気に掛けてはいたが、彼女の返事は決まって『大丈夫です』だった。

「……実を言うと、最初は慣れませんでした」
 リムはそう言って苦笑し、つられて神無も苦笑して言う。
「私も。何しろ旅なんて初めてだし、もう毎日が初めてだらけって感じ」
 それを聞いて、リムはふいに表情を硬くする。
「あの……それって、不安ではありませんか?」
 そう言ったリムは真剣な眼差しで。
 神無は黙って聞く。
「急に見知らぬ土地に連れてこられて、右も左も分からないまま、魔物との戦いの日々……神無さんは今の私と少し似ている気がします。 ……記憶を失ってしまった、私と」

 確かに。
 知っている人も、知っている場所もない。
 里にいる時は魔物と戦う事もなかった。
 そういう意味では、似ている所もあるだろう。

 だが。
「……確かに、不安が全く無いって言ったら嘘になる。でもね?これは私が選んだ事なの。何が起こるか分からない、どこまで出来るか分からない。 それでも私は確かに必要とされていて。絶対に最後までやり遂げたいし、何たって、頼りになる仲間もいるんだから、きっと大丈夫!って思うの」
「神無さん……」
 頼りになる仲間、と言われ、リムは嬉しそうに笑った。

「まぁ正直ね、勘当同然で家を出てきたからなるようにしかならないし」
 苦笑して言った神無の言葉をリムは繰り返す。
「なるようにしかならない……」
「そう……でもそれも自分の努力次第でいくらでも変わるの。だからきっと平気。リムの記憶も戻るよ。ね?」
 その言葉に、リムに笑顔が戻る。
「うん。やっぱりリムは可愛いんだから、暗くなるより笑顔でいた方がいいよ。何より、福が逃げないようにね」
 そう言って神無は笑って見せて。

 それから二人は色々な話題で盛り上がった。