一行は雪原を歩き続け、ようやく海岸へと出た。
だが見渡す限り海が広がり、島影などどこにもない。
「……北東の孤島、見当たんねぇじゃん。船もないのにどうするんだよ」
ラティスの指摘通り、近くに船はおろか、港も桟橋すらも見当たらない。
「大丈夫ですよ。見えなくしてるだけですから」
そう言うとフォリシスは杖を掲げる。
「不可視の壁よ、今、その護りを解きて、我等にその真実の姿を!」
すると今まで何も無かった海面上に、突如として島が姿を現した。
「……すっごーい!ねぇ、今の何?今のも魔法なの?」
はしゃいで神無はフォリシスにそう問う。
だが。
「このバカモンがっ!」
「っ!?っ痛〜っ!」
突然どこから現れたのか、一人の老人がフォリシスの頭を杖で叩いた。
何が何だか分からず神無達が戸惑っていると、フォリシスが頭を押さえながら言う。
「……痛いじゃないですか、お師しょー様っ!」
「え……?」
お師しょー様。
という事はつまり。
「貴方が……北東の孤島に住まう大賢者様……?」
「いかにも」
大賢者はフォリシスと似たようなローブに身を纏い、その手にある杖は木で出来ているのだろうか?身の丈程もあった。
「バカ弟子はおいといて。……初めまして、神無殿。わざわざこのような地まで来て貰って申し訳なんだが、色々と事情があったのでな。すまなんだ」
大賢者は神無に向かってそう言うと、深々と頭を下げる。
「いえ、そんな……」
「しかし……フム……なかなかどうして……これは褒めるべきかのぅ……」
全員の顔を見ながら、大賢者はそう呟くと、何やら考え込む。
「まぁ話は島でするとしようかの」
そう言って大賢者が杖を一振りすると、全員がそれぞれ光の球体に包まれ、そのまま一気に島へと着いてしまった。
島には小屋と温室らしきものがあり、その他にも花壇やら菜園やら、様々なものがあった。
フォリシス曰く。
「魔法に使う薬草なんかを主に育てているんですよ」
との事だった。
小屋の中に入ると、全員椅子に腰掛けてから話を聞く。
「まず、この島の事は口外しないで頂きたい。正確な島の位置がバレると少々厄介なのでな。普段はお主達も見た通り、不可視の壁で島全体を覆っておる。
なのにこのバカ弟子ときたら……周囲をキチンと確認せんと、不用意に壁を解きおって!」
怒鳴られてフォリシスは、小さくなって謝る。
「すみませんでした……」
その様子に大賢者は溜息を吐くと、話の本題に入る。
「さて、他でもない神無殿に来て貰った理由だが……お主からは不思議な気の流れを感じるのでな。是非とも宝珠探しを頼みたい」
宝珠探し。
その言葉に、神無はフォリシスから聞いた話を思い出す。
「それはやはり、月の宝珠ですか?」
「いかにも。十五年前、七つの光に別れてしまった時も、今のお主のような不思議な気の流れを感じたのでの。お主が適任だと思っておる」
不思議な気の流れ、というのがどういうものかは分からないが、それは必然という事なのだろうか。
「魔術的に考えると、同じものは引き合う性質があるとされておっての。つまり、宝珠と神無殿がお互いに引き合えば、宝珠は自ずと集まると考えておる」
魔術的な考えによる所の、引き合う性質。
その理論はよく分からないが、分からなくもない。