「お師しょー様!?」
フォリシスは布団を撥ね退け、勢いよく起き上がる。
「……あれ?ここは……」
だが周囲を見回すと、そこは見慣れない部屋だった。
「あ、目、覚めた?」
そう言ってフォリシスの傍に来たのは神無だ。
「神無、さん……ここは……?」
「ここはエバーラッサ。……あの爆風に吹き飛ばされて、海岸に倒れていた所を助けられたの」
エバーラッサは常夏の島にある街だ。
人々は“南国の楽園”と称し、観光名所として名高い。
「そう、ですか……あの、お師しょー様は!?」
だが、神無は無言で首を横に振る。
「そんな……お師しょー様ぁ……」
「しけた顔すんなよ」
落ち込むフォリシスにそう声を掛けたのはラティスだ。
「まだ死んだって決まった訳じゃねぇだろ?」
ラティスの言う通りだった。
何も死を確認した訳じゃない。ただ、物凄い爆発が起こっただけだ。
大賢者なら身を護る術ぐらい、持っているかもしれない。
「ラティス君……そうですよね。あのお師しょー様が簡単にくたばるハズありませんよね」
そう自分に言い聞かせるようにして、フォリシスは少しだけ元気になった。
その時ドアがノックされ、一人の若者が入って来た。
「連れは目を覚ましたのか?」
年の頃は十五〜六だろうか。神無やラティスと同い年か、少し下に見える。
「ええ。フォリシス、彼はマリノス。海岸に倒れていた私達を見つけて、助けてくれたの」
「あ、初めまして。ありがとうございます」
神無の紹介で、フォリシスはマリノスにニッコリと笑ってお礼を言った。
そうしてマリノスの顔をもう一度見て、フォリシスはふと思う。
「……?何かマリノス君って……心なしかラティス君に似ていませんか?」
マリノスの容姿は金髪碧眼。
確かに瓜二つとまではいかないが、兄弟で十分通せそうな程には似ていた。
「やっぱりフォリシスもそう思うよね?なのに……」
「絶対似てねぇ!ったく……」
神無の言葉を引き継ぐように、ラティスが強い口調で否定する。
すると、それに対抗するようにマリノスが口を開いた。
「俺もお断りだね。こんなのより俺の方が数倍カッコイイ」
「何だと!?」
「何だよ!?」
何だかとても仲が悪い。
神無は“ずっとこの調子”と言わんばかりにフォリシスに目配せをして肩を竦めた。
「……どうしてあんなに険悪なムードなんです?」
するとリムがこっそりと耳打ちをした。
「よくは分からないんですけど、ラティスさんはマリノスさんが神無さんに近付くのが嫌みたいです」
あぁ、つまり。
ヤキモチなんだな、とフォリシスは納得する。
「最近、特に山越え後から、ラティスさんはずっと神無さんに付きっきりでいましたからねぇ……
そう言ってフォリシスは溜息を吐いた。