「せめて、珠の飛び散った先に法則性があるとか、決まった場所があって、それぞれそこに行く、とかいうのであればなぁ……」
何気なく言った神無の言葉に、ラティスは少し考える。
「どうしたの?」
「いや……珠にはそれぞれ守護精ってのが宿ってるんだろ?だったら落ちる先も自分の意思で決められるんじゃねぇ?」
その言葉に、フォリシスが何か思いついたように言う。
「そうだ!お師しょー様の魔術書!あれなら何か書いてあるかも……」
そう言ってフォリシスは分厚い魔術書のページを開いた。
暫くしてフォリシスが口を開く。
「……えっと、これかな?月…珠……虹色の……どうやらこれみたいです」
そうしてフォリシスは指で文字を辿りながら読んでいく。
「元……来る……いや、元来……別々…の……七……珠……」
「“月の宝珠と呼ばれるその虹色の珠は、元来別々だった七つの珠に宿る守護精達が、大いなる邪悪を封じる為、一つの形になったものである。”」
苦労しながら読むフォリシスをよそに、そうスラスラと読み上げたのは、魔術書を覗き込んでいたリムだった。
「読めるんですか!?」
「はい……読めます……何故かは分りませんが……」
フォリシスは驚きを隠せず、当のリムも混乱しているようだった。
「リムさん……貴女は、一体……」
「何者なんでしょう、ね……」
場が重い空気に支配される。
沈黙が流れた。
だが、取り敢えず今は。
「リムさん、読んで貰えますか?僕が読むより早いですし」
そう言ってフォリシスはリムに魔術書を渡した。
「はい……続きから読みますね。……“七つの珠は属性を持ち、守護精に大いに関わりがある。即ち、風の守護精ウィンディア・水の守護精ウォーティス・
火の守護精ファイアスティ・大地の守護精アーサム・雷の守護精ヴォルティック・闇の守護精ダークネスト・光の守護精ライトーンである。
守護精達には属する土地柄があり、その魔力的価値の高い場所に鎮座していた。”……この後は大いなる邪悪を封じた経緯ですね」
そうして、読み上げられた文章の意味を全員で考え込む。
「属する土地柄、か……」
「風は平野、水は川。火は砂漠で、大地は山でしょうね」
そう言ったのは、地図を見ていたフォリシスだ。
「吹き抜ける風、流れる水、火は大地を焦がし、大地は悠然と構える。……魔術的に言うと、そんな感じです」
リムもその考えに同意した。
「そうですね。属する土地柄の魔力的価値の高い場所に鎮座していた、と書かれてありましたから、魔術的に見るのは理に適っていると思います」
魔術師二人が言うのだから、きっと間違いではないのだろう。
「じゃあ風はレミ平原?大地はヒューレ山脈で……火はこのハムラ砂漠って所ね。……水は?」
川なんてどこにでもある。それこそ、清涼の里にも川は何本も流れていた。
「まだあるぜ。雷、闇、光……この三つはどうなんだ?」
そう言ったのはラティスだ。
「雷は……このマニュファダスという街の近くに、大きな鉱床があるんです。この街はその鉱床から採掘した鉱物を加工して発展している街なんですが……その鉱物の中に、
帯電性のモノがあると聞いた事があります」
雷を帯びた鉱物。雷は十中八九、そこに間違いないだろう。
「ただ、魔術的に見ると光と闇というのは、昼と夜そのものなんです。ですから、少し難しいかもしれませんね」
そこでフォリシスは一旦言葉を切って続ける。
「それで水なんですが、今、僕達がいるこの常夏の島のどこかではないかと」
それを聞いて神無とラティスは驚く。
「え、何で?何でそーなるの!?」
「消去法ですよ。他の珠があると思われる土地を除くと、残るのはココか極寒の地。極寒の地では、流れるも何もないですからね」
すると、地図を見ていたラティスが反論する。
「ちょっと待てよ。ラノスがある中央はどうなんだ?」
「……中央は魔術の聖地。光か闇か、もしくは月の宝珠の、つまり全ての属性を併せ持つ地として考えられるんです」
難しい話だが、色々と勉強になる。