「ですから明日は取り敢えず……そうですね、マリノス君にでも、“清らかな水の流れ”で思い浮かぶ所がないか聞いてみようかと」
「反対」
 フォリシスのその提案に、ラティスは露骨に嫌そうな表情で即答する。
 何となく理由は察する事が出来るが、それでもフォリシスは一応聞く。
「……何故ですか?」
「……アイツ、気に喰わねぇ」
 思った通りの答えを、しかも子供みたいな拗ねた口調で言われ、内心やれやれと思う。

「ラティス」

 窘めるような口調で名前を呼んだのは神無だ。
「水の宝珠がこの地にあるかもしれない以上、その土地に詳しい人に聞くのは当たり前でしょ?気に喰わないから、なんて言ってる場合じゃないんだから」
 だがラティスは、そんな神無の言葉を無視するかのように真剣な目で言う。
「神無。絶対アイツに気を許すなよ」
「……何で?」
 そう聞いた神無の表情はキョトンとしていて。
 ラティスは苛立ったように言う。
「何でも!」
 だが、そんな様子のラティスを見て、神無は更に首を傾げる。

 何でこんなにムキになってるんだろう?
 変なラティス。

 そう思いながらも、一応承諾しておく事にした。
「……分かった」

 そんな二人のやり取りを見ながら、フォリシスとリムは一瞬唖然とし、コソコソと話す。
「……神無さん、もしかして気付いてないんですか?」
「……みたいですね。ラティスさんの不機嫌の原因に気付いてらしたら、あの反応はないでしょうし」
 意外に鈍い神無に、二人は同じ事を思った。

“頑張れラティス”

 と。


 次の日、マリノスに心当たりがある、というので、彼の案内の元、その場所へと向かっていた。
 途中、魔物に襲われる事もあったが、四人は難なく倒していく。

「ヒュー♪強いね」
「……貴方は魔物に対して、少しも恐れを感じていないのですね」
 リムが不審に思いそう問うと、マリノスは意味深な笑みを浮かべた。
 更に聞こうとするが、マリノスは神無の元へと行ってしまった。

「リムさん、どうかしましたか?」
「フォリシスさん。いえ……マリノスさんのあの余裕……私達の実力も知らない筈なのに……見た所武器も所持していないようですし……なのにどうして あそこまで平然としていられるのかと思いまして」

 そう。自分でさえ、記憶喪失で初めて魔物に遭遇した時は怖かった。
 魔術が使えると分かってからも、暫くは恐怖が残っていたというのに。

「……意外に武闘派とか?」

 まぁ彼が男だからと言ってしまえばそれまでだが。
 疑問は尽きない。


 道中マリノスは積極的に神無に話しかける。
「神無さん。神無って呼び捨てでもいいかな?神無はドコの出身だい?」
「え、清涼の里だけど……」
「清涼の里!あの東の端……いや、極東に位置する神秘の里か。一度行ってみたいね」
「……そんな神秘でもないんだけど……」

 どうしよう。この人とは根本的に合わない気がする。

 そんな事を神無が思っていると、ラティスが二人の間に割り込んできた。
「気安く神無に話しかけてんじゃねぇ」
「君の方こそ、邪魔しないでくれないか?」
 一気に険悪になったムードに、神無は片手で頭を押さえ、溜息を吐く。

 あぁもう、この二人は……。

 何故こんなにも仲が悪いのか、その理由を掴みきれていない神無にとって、この二人の衝突は悩みの種だった。
 すると後方から助け舟を出すかのように、フォリシスが口を開く。
「マリノス君。後、どのくらいかかりますか?」
「二日って所かな」

 つまり往復で四日だ。先は長い。
 何だか頭が痛くなってきた。