第五章〜水の守護、そして新たなる地〜


「この森の奥だ」

 マリノスの案内で着いた森は、緩やかな傾斜がかかっており、そのあちこちに水の流れが出来ていた。
 恐らくは傾斜の途中途中で、幾重にも分岐してしまっているのだろう。

 そして、その森の奥に目的の場所かあった。
「うわぁ……」
 それは、高さ五〜六メートルの滝だった。
 その水は澄んで透き通り、水底までクッキリと見える程だった。
「空気もおいしいですね。でも、肝心の珠はドコに……」
「それなら見当が付くわ」
 神無の言葉に、全員の視線が集まる。

 こういう所の相場は決まっている。
 それは十中八九――。

「滝の裏側」


 五人は滝の裏側に見つけた洞窟の中を進んでいた。
「……でもまさか、マジであるとは思わなかったぜ」
「まぁこういうのは、清涼の里にもあったからね」
 神無が苦笑してそう言うと、マリノスが話に割って入る。
「凄いよ神無。本当に賢い女性だ」
「はぁ……」
 大袈裟にそう褒めるマリノスに、神無は呆れて何も言えない。

「ココで行き止まりみたいですね……」
 魔法で周囲を照らしながら先頭を歩いていたフォリシスが、そう言って立ち止まった。
 そこは少し広い空間になっていて、奥には祭壇のようなモノがあった。
「あれは……」
 近付いてみると、祭壇の上で、青い珠が淡い光を放っていた。
「これが珠……」
 珠は、手の平に収まるサイズだった。
 全員が祭壇を覗き込む中、珠は突然強い光を放った。
「な、何……!?」
 光が収まると、そこには見た事もない存在がいた。

 全体的には水色で、魚とも獣ともつかない顔に、たてがみのような毛。そこからは角が二本生えており、眼はエメラルド・グリーンでガラス状だ。
 耳はヒレ状になっていて、形としては、鹿とか、そういったモノの耳が三つ重なっている、という印象だった。
 胴体は、基本はオットセイだが、透明の鱗で覆われており、手はトビウオの胸びれのようだ。

 暫く皆見とれていたが、真っ先に我に返ったリムが問い掛ける。
「貴方が、水の守護精・ウォーティス、ですか……?」

いかにも

 それは、頭に直接響くような声だった。
 そうしてウォーティスは、ラティスを見据えた。
……
「な、何だよ……」
 ラティスは少したじろぐ。
お主、名は……?
「ラティス、だけど」
そう、ラティス……水の脅威を知る者よ。主に、清らかなる水の加護を与えよう
 だが、そう言われたラティスは愕然とし、困惑していた。
「何で……何で俺なんだよ!?」
それは主が水の本当の姿を知る者だからだ。水の恩恵と、そして脅威を
「……」
主は昔……
「やめろ!それ以上言うな!」
 そう叫んだラティスは、酷く動揺した様子で震えていた。
「……やめてくれ……っ」

……主が何と言おうと、我は水の加護を主に与える……

 ウォーティスがそう言うと、水の珠はラティスの胸元へと行き、次の瞬間、ペンダントとしてその首にぶら下がった。
主らには辛く困難な旅になろう。だが……信じているぞ
 そう言い残して、ウォーティスは姿を消した。