キャデスレットへと向かう船の中で、神無はラティスを探していた。
「あっれ……いないなぁ……」
どうしても気になっていた。
あれから数日。ラティスの様子はずっとおかしい。
気付くとラティスは一人でずっと辛そうな表情をしていて。
話も殆ど聞いていないようで、返事はするが、ずっと上の空だった。
だから神無は、ラティスに対して何かしてあげたいと思っていた。
そうして色々探して、船尾の甲板の片隅に、ようやくその姿を見つけた。
「ラティス」
その呼び声に気付いて、ラティスが振り返る。
「……神無か」
神無はラティスの隣に行くと、手摺りに背を預けた。
「……ねぇ、ラティス。どうしたの?ウォーティスに会ってから、ずっと辛そう……」
「……別に」
拒絶するようなその返事に、神無は胸が苦しくなる。
「そっか……ごめんね?変なコト、言って……」
辛い気持ちをグッと抑えて、無理に笑顔を作る。
「あ……」
そんな神無の表情を見て、ラティスは気付く。
傷付けた。
そう思ったら、衝動的に抱き締めていた。
「……ラ、ティス……?」
突然の事に神無は驚いたが、同時に凄くドキドキする。
顔が熱い。
「……悪い。心配かけて……昔、色々あって、その事を指摘されて……でも、今はまだ言えないんだ……けど、いつか……聞いて、くれるか……?」
ラティスは今にも消え入りそうな声で、途切れ途切れにそう言って。
物凄く辛いという事が伝わってくる。
「……いつか、聞かせてね」
「……ありがとう」
今はまだ、聞くべき時ではないのだろう。
だから、これでいい。
ラティスが、いつか自分から話してくれる日が来る。
その日が来る事を、神無は祈った。
港に着いた神無達を待っていたのは、強い日差しと砂漠の旅だった。
キャデスレットは砂漠のオアシスに作られた街。その為、港からかなり歩かなくてはならなかった。
ジリジリと照りつける太陽は、体力も思考も容赦なく奪っていく。
道中は皆無言だった。
ただ二人を除いて。
「……何でテメェがいるんだよ……!」
「……うるさいな……俺の勝手だろう……」
暑さの為小声ではあるが、ラティスとマリノスはずっとこの調子だった。
本当ならばマリノスとはエバーラッサで別れる筈だった。
しかしマリノスは。
「俺も同行させてもらうよ。マニュファダスには俺の知り合いもいるしね」
そう言って半ば強引に付いて来てしまった。
何せ、マリノスには色々と恩がある。簡単には断れず、また彼の銃は戦闘でも役立つ。
元々、来る者は拒まずがフォリシスのモットー。
反対するだろうと思われたラティスは塞ぎ込むような様子だったし、結局同行する事になって今に至る、という訳だ。
だからラティスがいつもの様子に戻った事で、ちょっとした言い合いが続いているのだが。
普段ならそれを鬱陶しいと思う所だが、神無はラティスの様子を心配していただけに、内心良かったと思う。
その時だった。
「……あ、れ……?」
神無は自分自身の異変に気付いた。
頭がクラクラする。
視界が暗い……?
世界が色を失くしたように、モノクロに映る。
何だろう、コレは?
そう思った瞬間、自分の体がグラッと傾く感じがして、気が付くとその場に倒れていた。
遠くから誰かの声が聞こえる。
“大丈夫、大丈夫”
神無はその言葉を上手く発せられたか分からなかった。
遠退く意識の中で、神無は誰かに抱き上げられるのを感じた。