第六章〜火と雷、そして、闇の始動〜


 神無が目覚めたのは、ベッドの上だった。

「……ここは……」
「気が付いたか?ここはキャデスレットの宿だ」
 声のした方を見ると、そこには椅子に座ってこちらを見るラティスがいた。
「ラティス……?私、一体……」
 起き上がろうとした神無を制しながら、ラティスは言う。
「まだ寝てろ。ったく、砂漠で急に倒れるから、心配したんだぞ?」
「……ごめん……皆は?」
 謝って、神無は部屋にラティスしかいない事に気付いた。
「火の珠についての聞き込み。……何で何も言わなかった?」
 その口調は静かだったが、怒っているのが分かった。
「……その、結構急だったし……」
「それにしたって前兆とかあるだろ!砂漠なんて初めてなのに、少しでもおかしいって思ったらちゃんと皆に言えよ。バカかお前は!?……すっげー心配したんだからなっ!」
 思わず、といった様子で立ち上がったラティスは、ドカッと椅子に座りそっぽを向く。
「ラティス……」

「どうしたんですか、一体」
 今のラティスの怒鳴り声を聞きつけたのか、そう言って部屋に入ってきたのはフォリシスだった。一緒にリムとマリノスもいる。
「神無さん!気が付いたんですね。良かった」
「あまり無茶はなさらないで下さいね。街が近かったからよろしかったようなものの……」
 本当に心配していたという表情のフォリシスとリムに、神無は何だか申し訳なくなる。
「……ごめんなさい」
「心配したよ、神無……それにしても、病人に対して怒鳴りつけるなんて、非常識な奴だな、君は!」
 マリノスにそう非難され、ラティスはムッとする。
「いちいちウルセェ奴だな!大体、聞き込みはどうしたんだよ」
 そうしてラティスとマリノスが睨み合った。
「はいはい君達、ケンカは外でね……リムさん、神無さんの事お願いします」
 今にも掴み合いを始めそうだった二人を半ば強引に、フォリシスは部屋の外へと連れ出した。

 部屋の外からは何事か文句を言う声が聞こえてきたが、それを無視してリムは口を開く。
「……本当に、皆心配したんですよ?中でもラティスさんが特に」
「ラティスが……」
「ええ。誰よりも早く、倒れた神無さんに駆け寄られて。ココまで運んだのも彼ですし、付き添いも今までずっとお一人で」

 では、気を失う直前に感じた、誰かに抱き上げられる感覚は、あれはラティスのものだったらしい。
 神無は、その事が何だか嬉しかった。

「代わりましょうか?ってお尋ねしたら、“いい、自分が見てる”と、頑として聞き入れなくて。マリノスさんが大変でしたよ。“代われー!”って」
 その時の事を思い出したのか、リムは小さくフフッと笑った。
「……そうなんだ」
 つられて神無も苦笑していると、フォリシスが部屋に入ってきた。
「何とか大人しくなりましたよ。……気分はどうです?お医者様の話では、軽い日射病という事でしたが」
「まぁ、何とか一応」
「初めて清涼の里を出てから、ずっとこんな長旅で。疲れが溜まってた所に、慣れない砂漠越えでって所ですかね……心配を掛けたくない気持ちは分かりますが、 無理は禁物ですよ?」
 やんわりと咎めるような口調でそう言うと、フォリシスは軽く息を吐く。
「……以後、気を付けます……」
「……もう少し安静にしてて下さいね。何かあったら、隣にいますので」

 そうして二人は神無を残して部屋を出て行った。