神無達は用事が済んだ事と、鉱山の立ち入り許可のお礼をキチンと言う為、ベリノの元へと向かう。
「親方!」
「おぉ、マリノス。それに他の皆さんも、無事だったんだな」
心底ホッとしたという表情に、ベリノがずっと心配していたのが分かった。
「……用事は済んだのかい?」
「ええ。これも鉱山に入る事を許可して頂いたベリノさんのお蔭です。ありがとうございました」
リムがそう頭を下げ、皆、それぞれ頭を下げた。
「いいって事よ。他ならぬ、マリノスの頼みとあっちゃな」
そう言ってベリノは豪快に笑った。
「そういえば、マリノス君はマニュファダスの出身なんでしたね」
「あぁ。よく両親にくっ付いて、鉱山の方にも遊びに来てたなぁ」
しみじみと思い出すように言うベリノに、マリノスは突然声を荒げた。
「両親の話はしないでくれ!」
全員が驚いてマリノスを見る。
「あ……急に大きな声を出して、ビックリさせたね」
マリノスにしては力なく笑いながらそう言うと、少し散歩をしてくる、と言い残して外に出て行ってしまった。
パタンとドアが閉まってから、ベリノは口を開く。
「……やっぱりまだ、全部を受け入れ切れねぇか……」
「何か、あったんですか?」
そう聞かれ、ベリノは話すべきかどうか少し迷って、その重い口を開いた。
「何から話すべきかな……」
そうしてマリノスの過去を、ポツリ、ポツリと話し始めた。
マリノスは、ベリノの元で働いていたシラー夫妻の一人息子だった。
優しい両親の元ですくすくと育ち、人並みの幸せな家庭。
だが三年前、マリノスが十二歳の時、それは起こった。
鉱山で、落盤事故が起こったのだ。
そして運悪くシラー夫妻はその事故に巻き込まれ、マリノス一人を残して、帰らぬ人となってしまった。
「それだけじゃねぇ……アイツは遺品の整理をした時に見つけちまったんだ。母親の日記を」
そこに記されていた真実。
「……マリノスは、シラー夫妻の……実の息子じゃねぇんだ」
「それって……」
「日記には、マリノスがシラー夫妻に預けられた経緯が書いてあった。だが、本当の親が誰かとかまでは……」
「……」
「ショックだったろうよ。……日記には実の息子以上に自分を思う気持ちも書かれてて、アイツは怒る事も責める事も……感謝の気持ちを言う事も、
何も出来ないまま、苦しんでる」
真実を告げてもらえなかった事、自分が誰の子供か分からない事……それと、確かに自分に愛情を注いでくれていた事。
様々な事実が一度に分かり、それ故に混乱してしまっているのだろう。
「エバーラッサに行くよう勧めたのは俺だ。丁度知り合いが空き家を持っていたし、今はとにかくマニュファダスを離れて、気持ちを落ち着けて、
少しずつ心の整理が付けられれば、と思ったんだが……」
だが結果として、気持ちの整理が付く前に彼はココに戻ってきてしまった。
「大丈夫だと、思ったんでしょうか……」
暫くの間、沈黙がその場の空気を支配する。