すると何を思ったか、神無は外へのドアを開けながら言った。
「ちょっと迎えに行ってくる」
「な……っ!」

 そのまま外へ出ると、ラティスが後を追って出てきた。
「おい、ちょっと待て!」
 ラティスは神無の腕を掴んで止まらせる。
「どうかしたの?」
 神無はそれを不思議に思って聞くと、ラティスは真剣な表情で答えた。
「行くな」
 その言葉に神無は怪訝そうな顔をする。
「……何で?」
 そう言うとラティスはムッとした表情になる。
「ねぇ、何で?」
 答えないラティスにもう一度聞くと、今度は言いにくそうに口を開いた。

「……俺が……嫌なんだ」

「え……」
 その言葉に神無はドキッとする。
 その理由ハッキリと聞きたくて、おずおずしながら言う。
「あの……ど、どうして……?」

 ドキドキする。
 どういう答えが返ってくるんだろう?

「――っ」
 次の瞬間、ラティスは何も言わずに神無を抱き締めた。
「!?」
 その事に驚いて、神無は口をパクパクさせるが、言葉が出てこない。
「……お前、全然気付いてないみたいだから言っとくけど、アイツ……マリノスの奴、お前の事好きなんだぞ……?」
「へ……?」

 マリノスが。
 私を……好き?

「えぇーーーっ!?」
「……やっぱり気付いてなかったか……」
 驚く神無をよそに、ラティスは溜息を吐く。
「だから……っ行くな……」
 ラティスはそっぽを向いて、だが、神無を強く抱き締める。

 ええと。
 これは、何?
 ただ単に、ラティスはマリノスの事が気に喰わないから引き止めてるの?
 それとも。
 他の理由……?

 ワケが分からなくなって、でもいつまでもこうしている訳にもいかないし、何だか恥ずかしい。
「あ、あのっラティス、離して……」
「嫌だ。……マリノスの所に行かないっていうなら、離してやる」
「〜〜っ」

 ラティスが髪を優しく撫でてくれているのが分かる。
 できればずっとこうしていたい気がする。

「……ねぇラティス?私は平気だよ?だから……」
「俺が嫌だって言ってるだろ」
 神無は困った。これじゃ押し問答だ。
「……じゃあラティスが迎えに行く?」
「はぁ?何で俺が……」
「だったらやっぱり、私が行かなくちゃ」
 その言葉にラティスはムッとする。
「お前が行かなくても、フォリシスとかに行かせりゃいいだろーが。……それとも何か?お前、マリノスの事……」
「!?違う!……そんな誤解……して、欲しくない……」

 顔が俯く。
 何でだろう、ラティスにだけは誤解して欲しくない。

 そう思って神無は無意識にラティスの胸元に顔を埋める。
「……じゃあ何で?」
 ラティスは髪を撫でたまま、静かにそう聞いた。
「……マリノスは今まで辛い事、一人で抱え込んでたわけでしょ?自分では大丈夫なつもりで、でもダメだった。だから、誰かがその気持ちを軽くしてあげなくちゃ、 一人でもっと苦しんで、気持ちが潰れちゃうと思うの」
 神無のその言葉に、ラティスは密かに顔を歪めた。

“辛い事を、一人で抱え込んで”
“誰かがその気持ちを”
“一人でもっと苦しんで”
“気持ちが潰れちゃう”

 自分が抱えてるモノは、マリノスなんかとは比べ物にならないくらい……。

 そこまで思って、ラティスはその考えを振り切る。
「……そんなの、アイツは望んでないかもしれないだろ」
「でも、このままじゃダメだと思う。きっと、旅もギクシャクしちゃう……」
 その言葉に、ラティスは深く溜息を吐く。

「……行けよ」
 ラティスはそう言って、神無を離す。
「今回だけは特別」
「うん……ごめん、ね。ありがと。すぐ戻るから」
「……あぁ」
 神無はマリノスを探して、街中に消えていった。

 その後姿を見送って、ラティスは溜息を吐く。
「……俺も大概ワガママだよな……神無は、俺のモノじゃないのに……」

 そうなる資格すら、ないというのに。

 そうして、もう一度溜息を吐いた。