マリノスを探しながら、神無はラティスの事を考えてしまう。
「何かラティス、いつもと違ってたなぁ……何でだろ?マリノスにヤキモチ、とか?……何で?」

 ワケが分からないまま、神無は気付けば街外れまで来ていた。
「……お墓……?」
 清涼の里の物とは異なる形をしていたが、確かに墓だった。

 そうして見ると、一つの墓の前で頭を項垂れて、マリノスが立っていた。
 その様子に神無は何だか声を掛け辛くて、静かに近付いた。
 マリノスは気配に気付き、神無を見る。
「……神無……」
「……ご両親の?」
「ああ……親方から?」
「うん……聞いた」
「……そうか」
 短い言葉を交わし、暫く沈黙が続いた。

 勢いで出てきて、ラティスにも嫌な思いをさせたのに。
 何も言葉が出てこない。
 何と声を掛ければいいのか、分からない。

 するとマリノスが口を開いた。
「……俺は捨てられた子供だ。なのに何も知らずに、二人の子供だって疑いもせず、大した意識もせず……赤の他人なのに」
 そう言ってマリノスは自嘲気味に微笑う。

「……捨てる神あれば、拾う神あり」

「何だい、それ?」
「清涼の里の言葉。……ご両親、本当の息子以上にマリノスの事、想っていてくれたんだよね」
「でも……!……他人だ」
 マリノスは頑なに否定し続ける。
「ねぇ……家族って、何?」
「……突然何を」
「家族っていっても、夫婦は赤の他人だし、本当の親子でも上手くいかない人達っているし……もっと言っちゃえば、他人って自分以外の人でしょ? 血が繋がっていようが、繋がっていまいがさ」
「……」
 神無はシラー夫妻の墓を見つめる。
「……結局さ、家族って絆なんだと思う。相手の事を想う気持ち。……それに理由があって、泣く泣く子供を手放す親もいるしね」
 そこまで言って、神無はふと、清涼の里の両親を思い出す。

 里を出る時に、親子の縁を切った両親。
 あの二人は、どういう気持ちで自分を……。

 だが今となってはもう、神無にその真意を探る事はできない。
「……取り敢えず、実の親と育ての親、自分には親が沢山いて、得だって思っておけば?」
「得……ねぇ」
 そう言ってマリノスは、クックッと笑い始めた。
「アハハハハッ!神無、君らしいね……ハハハッ!」
「……そんなに笑う事?」
 思い切り笑われ、神無は少しムッとする。
「ククッ……すまない。だけど神無の話を聞いていると、今まで悩んでいた俺がバカみたいでね」
 マリノスはそう言うと、神無に突然抱き付いた。
「!?ちょ……!」

「ありがとう」

 反射的に突き放そうとしたが、そう言われて神無は動きを止める。
「マリノス……」
 するとマリノスは、柔らかな笑顔で神無を見つめる。

「神無……好きだよ」

 そうしてそのまま、ゆっくりと顔が近付いてくる。

 何なにナニ!?
 もしかして……これってキスされそう!?

 その事にぎょっとして、神無は慌ててマリノスを押し返す。
「や……っ!マリノス、離して!」
 だが、意外にマリノスの力は強く、中々その腕から抜け出せない。
 そうして不意にラティスの言葉を思い出す。

『……マリノスの奴、お前の事好きなんだぞ……?』

 あの時はいまいち実感できていなかった。
 まさかそれが、こんな事になるなんて……。

 嫌だ。
 助けて。
 ラティス――!