第八章〜それぞれの想い〜


 潮風が頬をすり抜ける。
 冷たい水飛沫が上がり、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
 神無はセリークルへと向かう船の甲板で一人、手摺りの上に腕を乗せ、海を眺めていた。


 あの後、先にベリノの家に戻っていたマリノスは、まるで何事もなかったかのように神無達と接して。
 正直少し面食らった。

 何か言おうと口を開きかけた神無に、フォリシスが今後の進路について話しかけてきたので、やむなくそちらへ行く。
「このまま陸伝いですと、一度ラノス王国を通らなければならないんです。リムさんとも話していたんですが……通るのはやはり避けるべきだと」
「うん……そうだね」
「それで、ここから半日ほど行った所に、セリークル行きの船が出ている港があるらしいんです」

 セリークルといえば、神無が里を出て、初めて行った街だ。
 ラティスともそこで出会ったし、その先には目的地の一つであるレミ平原もある。
 リムとはそのレミ平原で出会ったし、いわば旅の始まりとも言える思い出の地だ。
 ラノス王国に不穏な影があるのだとすれば、やはりここは避けるのが賢明な判断であろう。

 そうしてベリノに別れを告げると、一行はセリークル行きの船に乗ったのだった。


 神無は海を眺めながら、本日もう何度目になるかも分からない溜息を吐く。
 あれこれ考える事は多いのに、先程から溜息しか出てこない。

「神無さん、どうかされましたか?そんなに溜息ばかり」
 声のした方を振り返ると、そこにいたのはリムだった。
「ラティスさんの事でも考えてました?」
「っな!?何でそこでラティスが!?」
 実は考え事の大半がラティスの事だった為、神無は思いっ切り慌てた。
「え、だって……ラティスさんの事がお好きなのでしょう?」
 さも当然の事のように言われた言葉に、神無はますます慌てる。
「え!?嘘、何で!?」
「……神無さん、ラティスさんといる時、いつも幸せそうで凄く可愛らしいですもの」
「か、可愛いって……え、てか、そんなにバレバレなの……?」
「凄く分かり易いですよ?」
「嘘〜っ!」
 神無は顔を真っ赤にし、リムはニコニコとそれを見ていた。

「……ですが、マニュファダスを出る少し前辺りから、少し沈んでいらっしゃいますよね……何かありましたか?」
「!……まいったなぁ……私、そんなに分かり易い?」
 苦笑して溜息を吐く神無に、リムは優しく笑顔を向ける。
「私でよろしければ、相談に乗りますよ?」
「……じゃあ聞いて」
「はい」
 神無は手摺りの上に乗せていた腕に顎を乗せて、溜息を吐いた。
 そうして海を見ながら言う。

「……マリノスに、告白された」

 顔を伏せ、何だか泣き声になりながら話を続ける。
「……キス、されそうになって……ラティスが助けてくれたんだけど……マリノスに対して凄く怒ってて、私には“間に合ってよかった”って」

 あの時は、助けてもらって安心した。
 でも。

「……でもやっぱり私のせいで不愉快な思いにさせちゃったから不機嫌で、それで悲しくなって泣いちゃって」

 自分が招いた事だけれど。
 ワガママかもしれないけれど。
 自分の方を見てもらえなくて、嫌だった。

「傍にいるって約束したから、傍にいるって言ってくれたけど……ラティスは私の事、どう思ってるのかな……」

 ラティスは、一体どういうつもりでああ言ってくれたんだろう?
 仲間、だから?
 それとも……。

 いくら考えても、神無には分からなかった。