一方。
神無の話を聞いていたリムは内心呆れた。
驚くべきポイントは多々あるものの、普通気付くだろう。
どこからどう見ても両思いだ。
だが、敢えてリムは黙っている事にした。
「神無さんから想いを打ち明ける、というのは?」
「……だって、ダメだったら今までみたいになんて、絶対無理だもん」
「ではこのままでよろしいのですか?」
だが神無は何も言わない。
「……神無さんは今、色々な事が一度にあって、頭がこんがらがってぐちゃぐちゃの状態なのではありませんか?」
「うん……」
「だから、ちょっとずつ考えましょう?」
「……うん」
リムに励まされ顔を上げた神無は、どこか辛そうに笑みを浮かべていた。
そんな二人を遠巻きにそっと見ている者がいた。
「そんな所で何してるんですか、ラティス君?」
急に声を掛けられ、今まで神無とリムの方に気を取られていたラティスは、心臓が止まるかと思う程驚いた。
「うわっ!?……何だ、フォリシスか」
「何だ、とは酷いですね。……で?覗き見なんて悪趣味ですよ?」
「バッ……!覗き見なんてしてねぇよ!」
「じゃあ何してたんです?」
「う……」
実際にはバレないように神無を見ていたラティスは、何も言えなくなる。
「……とまぁ、からかうのはこの位にして」
「……お前なぁ!」
「何話してるんでしょうね。あの二人」
「……さぁな」
ここからでは声は聞こえない。
だがラティスは、今の神無の傍にいてはいけない気がしていた。
「何かあったんですか?君も神無さんもマリノス君も……少し変です」
ラティスは答えなかった。
いや、正確に言えば答えたくなかった。
「ま、いいですけどね……マリノス君は船尾の方で呆けていたし、気になるといえば気になりますが……無理には詮索しませんよ。想像は大体つきますし。
どうせラティスさんかマリノスさんが神無さんに告白でもしたんでしょう?」
フォリシスの推察は的を得ていて――というよりほぼその通りで――ラティスは口元を引き攣らせる。
コイツ、実はどっかから見てたんじゃねーのか……?
口には出さずにそう思って、再び神無達の方を見る。
「……マリノスが告白して、俺がその場に居合わせて……でも、俺は……」
「告白しなかった?」
「……俺にはその資格が無い」
ラティスは辛そうに顔を歪め、握った拳は震えていた。
悔しいのだろうか?似た感じの彼を、前にも一度見た事がある。
そう思ってフォリシスは思い出す。
あれは水の守護精ウォーティスに会った時だ。
加護を与えると言われ、彼は“何故自分なのか”と言った。
その事と関係しているのだろうか?
「……君の過去に何があったかなんて詮索はしませんけどね。それでは神無さんが可哀想です。彼女の気持ち、君は知っているんでしょう?だったら全て話して、
決めるのは彼女ですよ」
「……そうかもな」
フォリシスに言われて考える。
神無の気持ち。
自分は知っている。
光栄にも、俺を想ってくれていて。
いつか話すと約束もした。
だけど。
嫌われて拒絶されるかもしれない。
それが堪らなく怖い。
「神無……」
太陽のような明るい笑顔。
包み込むような優しさは、淡く光る月のようで。
傍にいたい。
傍にいて欲しい。
――大好きだから。
失いたくない。