船室に戻っていた神無は、ドアをノックする音に答えながらドアを開けた。
「はーい。誰……ラティス……」
 丁度ラティスの事を考えていた神無は、真っ赤になって思わず俯く。
「……今、いいか?」
 神無はコクンと頷き、二人は並んでベッドに腰掛けた。

 色々な考えが頭を過ぎる。
 俯いたまま、頭の中が混乱しそうになったその時。

「ごめんな……」

 その言葉に、神無は弾かれたようにラティスの顔を見る。
 だがラティスは視線を虚空に彷徨わせたまま続ける。

「……今はまだ、話すのにもう少し時間が欲しいんだ」

 いつかした約束。

「だから、それまで待ってくれるか?」

 傷付いたような瞳。

「……うん」
「それだけ、言いにきた。じゃあ」
 そう言ってラティスは立ち上がる。
「あ……」
 神無のその微かな声に反応して、ラティスは振り返る。
「……どうした?」
 優しい声と眼差しに、神無は真っ赤になって俯いて。
「も、もう少しだけ、一緒にいて……」
 消え入りそうな声で、切なげな瞳でラティスを見上げて。
「……ダメ?」
 いつもの強気な神無とは違う、女の子の部分が顔を覗かせていた。

「っ……わかった」
 ラティスはそう言うと、踵を返してベッドに座り直す。
 それが嬉しくて、神無はとびっきり、満面の笑顔を向ける。

「……ありがとう……!」

 それを見て、ラティスは思わず神無を抱き締める。

 だって可愛い。我慢出来ない。

「ラ、ティス……?」
「……少しだけ、こうしていたい」
「うん……」
 二人は暫くそうしていた。



 フォリシスが甲板に出ると、そこにリムを見つけた。
「あれ、リムさん。どうしました?」
 声を掛けるとリムが振り返って苦笑する。
「フォリシスさん……いえ、今ちょっと部屋は……」
 その言葉の意味を察して、フォリシスは頷く。
「あの二人、上手く行くといいですね」
 そう言いながら、フォリシスはリムの隣に並ぶ。
「えぇ、本当に」
 海は、遠く地平の方まで太陽の光を反射してキラキラしている。

「マリノス君も反省しているようですし、後はラティス君次第、ですね」
「……もし神無さんを泣かせるような事があったら、許しませんけどね」
「ははっ……」
「ですが……どうにもならない事も、世の中にはありますしね……」
「……まぁ、我々は見守りましょうか」
「そうですね」
 そうして二人は微笑み合う。


 風が、穏やかに吹き抜けた。