第九章〜吹き抜ける風、悠然と構える大地〜


 セリークルに着いた一行は、ひとまず宿に部屋を取る。
「さて、吹き抜ける風がレミ平原を表すとして、問題は平原のどの辺りにあるか、という事です」
「広いですから、しらみつぶし、という訳にも行きませんしね……」
 着いてからすぐに街の人に多少聞き込みをしたが、これといった情報は得られなかった。
「うーん、吹き抜ける風、かぁ……それって気持ちいい風の吹く所って事?」
「だけど、障害物が何もない平原では、ね……」

 全員が頭を抱える中、今まで何も言わなかった、ラティスが口を開く。
「……丘」
 すると全員の視線が一気にラティスへと集中する。
「え、丘?何で?」
「……少しでも高い場所の方が気持ちいいだろ」
「ですが、レミ平原に丘があるかどうか……」
「……一ヶ所だけ、ある」
 ラティスは確信を持ってそう言った。


 ラティスが示した場所には、確かに緩やかな傾斜の丘があった。
 丘の上には立派な大木が立っていて、どこからか風が吹いてくる。
「ココ、涼しい〜」
「ですが、聖所はどこにあるんでしょうか?」
 見る限り、丘の周囲には何もないように思えた。
「見当違いなんじゃないのかい?何たってラティスの意見だし」
 皮肉混じりに言うマリノスに、ラティスは反論する。
「じゃあテメェは他に思い当たるのかよ」
「まぁまぁ二人共」
 一触即発状態になりかけた二人を、フォリシスが間に入って宥める。

 その時だった。
「……声……」
「え?」
「声が聞える……」
 急に神無はそう言い、両耳に手を当てて目を閉じ、耳を澄ました。
「……呼んでる……ここに来いって、そう呼んでる……」

 暫く神無はそうしていたが、急に何かに弾かれたように走り出す。
「おい、神無!?ちょっと待てっ!」
 制止の声も聞かず、神無は丘の反対側に行く。
 パッと見では分からなかったが、反対側の斜面は途中で崩れており、そこには隠し洞窟があった。

「ここから聞こえる……」
 神無はそのまま、導かれるように洞窟内へと足を踏み入れる。
「神無、待てって!」
 後を追ってきたラティスが腕を掴むが、神無には聞えていないようだった。
「……行かなきゃ……早く……」
 半ばトランス状態に陥ってしまっている神無は、そう言いながら洞窟を先へと進もうとする。
 仕方なく、皆揃った所で洞窟の奥へと進む事にした。


 最奥にはやはり祭壇があり、丁度そこを照らすかのように、天井から光が差し込んでいた。
 どうやらここは、丘の真下にあたるらしい。

 その時神無が正常に戻った。
「あれ!?ここドコ?」

すみません。貴女の意識を少し操りました

 そんな声がどこかから聞えてきて、鳥の形をした守護精が現れる。
「風の守護精ウィンディア……」
 神無はただ単純に、綺麗だと思った。

 体の色は全体的に緑のグラデーションで、先へ行く程濃くなっており、顔や腹の辺りは白。
 後頭部と尾の辺りは長く、さらさらと風に流れている羽根が、まるで絹糸のようだ。

 だが、そうとばかりも言っていられない。
「ウィンディア!私を操ってまでココに呼んだのは何故?」
虚無が覚醒しました。時は一刻を争います。……心地良い気を発する者よ。懐かしい気の流れ……貴女は……そうだったのですね……
 ウィンディアは何かを納得すると、そのまま続ける。

貴女に吹き抜ける風の加護を。そして今後、私は貴女の翼となりましょう

 風の珠はペンダントとなり、神無の胸元で淡い緑の光を放った。