神無とラティスはウィンディアの背からそれらしき場所を探した。
「う〜ん……ないなぁ……そっちは?」
「こっちもそれらしいものは……ん?」
「どうかした?」
「いや……ウィンディア、あの辺りにもう少し近づけないか?」
分かりました
ラティスが見つけたのは谷の方にある横穴で、地図と照らし合わせてみる。
「……うん。ルートも大体把握したし、戻ろっか」
神無がそう言った時、一際強い風がウィンディアごと神無達を煽った。
「きゃ……っ!」
「神無!」
バランスを崩して落ちそうになった神無をラティスは自分の方へ引き寄せ、咄嗟に抱き締めた。
「……平気か?」
「うん……ありがと」
するとラティスは神無の頬にそっと触れる。
「え……」
近付いてきたラティスの顔に、神無は思わずギュッと目を閉じる。
しかしキスをされる事はなく、代わりにきつく抱き締められた。
「……悪ぃ……暫く、このままこうしていたい……」
「……うん」
ラティスは少し、震えているようだった。
「入り口、見つかったんですか!?」
宿に戻って、神無は早速地図を広げ、横穴を見つけた事を説明した。
「登山道の途中で横道に逸れる事になるけど、行けない事はないと思う」
「谷の方にあるから、風が強くてウィンディアでは危険だった」
そうして五人は、徒歩で洞窟まで向かう。
その道中、リムが小声で神無に話し掛けてきた。
「で?ラティスさんとは何か進展は?」
「え、ちょ……な、ないよ進展なんて……」
助けてもらった時に、顔が近付いてくるのをキスされると勘違いしたけど。
きつく抱き締められた時、ラティスは震えていた。
「と、とにかく何もなかったから!」
それを言うべきではないと思って、神無は慌ててそう言った。
そんな二人の様子を眺めながら、前を歩くフォリシスは呟く。
「女の子達は何だか楽しそうですね……それに比べて」
そうして更に前を行くラティスとマリノスを見れば、一言も喋らず、顔も合わせず、かなり険悪ムードだ。
「……仲悪そうですね……」
思わずフォリシスは溜息を吐いた。
目的の洞窟に着いて、中を見た一行は驚いた。
「これは……こんな所に鍾乳洞があるなんて……」
それは、本当に見事なものだった。
つらら状に天井からぶら下がった鍾乳石と、筍状に炭酸石灰が積もった石筍が、自然の造形美を作り出していた。
そうして滑りやすくなっている鍾乳洞の中を進んだ先。
「ありました!祭壇です!」
真っ先に駆け寄ったのはフォリシスだ。
「……そっか。フォリシスだけ、まだ守護精の加護がないんだっけ」
「内心では焦ってたって事か?」
祭壇ではもう既にフォリシスが守護精に呼び掛けている。
「大地の守護精アーサム!どうか僕達に協力して下さい!」
すると暫くして洞窟全体が大きく揺れ、声がした。
誰だ。わしの眠りを覚ますのは
その声と共に現れた大地の守護精アーサムは、意外に小さかった。
子供くらいの大きさで、蛙が亀の甲羅を背負って立っているという印象。
先が吸盤状になった三本指の手は、鍾乳洞の中でも滑る事はなさそうだ。
そして全体としては黄色の体に時折白い部分が覗き、甲羅は茶色に見えるが、一応暗緑色といった感じだ。
加護を受けし者達か。事態もかなり切迫しておる。……わしの守護する大地の珠が必要であろう。この中ではお前さんが適任かの
アーサムが指名したのはフォリシスだ。
お前さんに、おおらかな大地の加護を授けよう
アーサムがそう言い、黄色の珠がフォリシスの胸元で輝いた。
試練を乗り越える事を、祈っとるぞい
「……試練って……?」
謎の言葉を残してアーサムが姿を消した次の瞬間。
洞窟内が眩い光に包まれた――。