その時。

「何だ、珠持ってんのはお前らか。それにしてもあの爆発でよく助かったモンだなぁ?まぁいい。お前らの珠、寄越せや」

 突然空中から聞えた声に、神無達が見上げた視線の先には魔人がいた。
「!?お前は……!」

 見間違うハズもない。
 それは紛れもなく、北の孤島に現れた魔人だった。

「お前!お師しょー様をどうした!?」
「あぁ?誰だソレ……あぁ!あのくたばりぞこないのジジィか!……さぁな。爆発の後にはいなかったからよ。粉々に吹っ飛んじまったか、 跡形もなく消滅しちまったんじゃねぇの?」
 そうして魔人は下卑た笑い声を上げる。

 だが神無達は、魔人の言った事が信じられず、呆然とする。
「……お前……よくも……よくもお師しょー様を……!」
 その中でフォリシスはギリッと奥歯を噛み締めると、大賢者から渡されたあの魔術書のページを開く。

 それは、禁呪が載っているページだった。

 その開いたページに片手を乗せ、フォリシスは呪文を唱える。
「宇宙に広がる数多の星よ!降り注ぎて我が敵を滅せよ!……隕石召喚≪メテオストーン≫!」
 フォリシスの呪文詠唱に反応し、魔術書は薄く発光する。

 次の瞬間、空から大量の隕石が魔人に向かって降り注いだ。
「な、何ぃ!?ぐおぁぁぁぁ!」
 避ける事も叶わないまま、魔人は隕石により呆気なく消滅してしまった。

 だが、隕石は止む事なく降り注ぐ。
 それどころか、今度は神無達目掛けて振ってきた。

障壁展開≪バリア≫!」

 間一髪の所で魔法障壁を展開させたのはリムだ。
「……っく……!」
 だが隕石の威力が大きすぎるのか、その表情は辛そうで、あまり長くは保てそうにない。
「魔法が……暴走しています!早く術者を、フォリシスさんを止めて……!」
 その言葉にいち早く動いたのは神無だ。
 障壁を抜け、フォリシスの懐に入り込む。
「フォリシス……ごめん!」
 そう言って神無は、フォリシスの鳩尾に思いっ切り剣の柄を喰らわす。
「かはっ……!」
 その衝撃にフォリシスは膝をつき、気を失って崩れ落ちる。
 それと同時に、隕石の落下も止まった。
「よかっ……た……」
「リム!」
 障壁で魔力を使い果たしたのであろう、リムもその場に崩れ、気を失った。


 意識が次第に明るい方へと浮上する。
 そうすれば何か聞えてきて、フォリシスは重たい瞼をそっと開いた。
「こ、こは……?」

 頭が痛い。クラクラする。
 まるで二日酔いの時のような。
 風邪の引き始めの時のような。
 でもどちらとも違う感じ。
 ――何があったっけ。

 フォリシスは記憶の糸を手繰り寄せる。

 確か“光と闇の幻想の地”を探して、白夜が見られる場所に行って。
 でも手掛かりは何もなくて、一度街に戻る事になって――。

「そうだ……アイツが現れたんだ……」

 お師しょー様を襲った、あの魔人。
 あぁ、そうか。思い出した。
 自分は魔法を暴走させたんだ。

「……あー……皆さんに迷惑を……」

 迷惑を掛けてしまった。