そう落胆していると、不意に自分を覗き込む顔に気が付いた。
「……神無さ……」
覗き込んでいたのは神無で。
「起きた?ねー起きたみたい」
だが言葉の後半を部屋の外に向かって言いながら、どこかに行ってしまう。
「あ……?」
思わず伸ばしてしまった手は、虚しく宙を掴む。
「……」
取り敢えず、だるさの残る体を無理矢理動かし上半身だけ起こせば、隣のベッドでリムも寝ている事に気が付いた。
「あ、起きて平気?無理しないでね」
戻ってきた神無は、ラティスとマリノスと一緒だった。
「この二人一緒にしとくとうるさいから、部屋出ててもらってたの。ところで鳩尾の辺り痛くない?剣の柄で思いっ切りやっちゃったんだけど」
そう言われてみれば少し痛い気もして、服の上からそっと触ってみる。
するとどうやら、青痣ができているらしい事が分かった。
「……平気です」
苦笑しながらそう言えば、神無も少し苦笑する。
「……それより、僕のせいで皆さんを危険な目に……」
「あー待った。謝るならまず、一番にリムに言ってあげて」
「……はい」
何があったのか、大体の見当は付く。
暴走した魔法で皆が傷付いていないのは、恐らくリムが魔法で守ったから。
そこで、丁度リムが目を覚ました。
「……皆さん……?無事……なようですね」
「うん、リムのお蔭。……平気?」
ええ、と言いながらリムは上体を起こす。
「リムさん、すみませんでした。僕のせいで……」
「いいえ、お気になさらないで下さい」
だがその直後、リムは頭を押さえ、呻き声を上げる。
「ちょ……ちょっと平気!?」
苦しそうな顔をしたのは一瞬で、焦点の定まらない瞳でリムは呆然とする。
「リム…さん?」
恐る恐るフォリシスが声を掛ければ、リムは途端に正気に戻る。
「え!?はい、あの、ちょっと頭痛が……もう平気です」
だがその表情はどことなく暗いものだった。
「まぁ、あれだけ凄い魔法を防いだんだ。何かしらの影響が残っていても仕方ないんじゃないかい?」
そう口を挟んだのはマリノスだ。
「それにしても、あんなすげぇ魔法をフォリシスが使えるなんて思わなかったぜ。これも熱心にその魔術書を読んでたからか?」
からかうように言うラティスに、フォリシスは真っ赤になって慌てる。
「知ってらしたんですか!?」
「でも暴走させちゃねー」
「すみません……」
今度は半泣きで落ち込む。
「それはそうと、“光と闇の幻想の地”はどうするんだい?結局、誰かさんの言った白夜の地はハズレだったじゃないか」
「おい、それケンカ売ってんのか!?」
今にも取っ組み合いを始めそうなラティスとマリノスの間に入って、神無が口を開く。
「はい、騒がない。リムもフォリシスも安静にしてなくちゃなんだから、あんた達がうるさくしちゃダメでしょ」
すると二人は憮然とした表情のまま、お互いにそっぽを向いた。
「……それで、一つ気になる事があったんだけど……街に戻ってくる時、北の空に何か、いろんな色に光ってる、こう……カーテンみたいな形の綺麗な、
というか幻想的な光景を見たんだけど」
その説明に、フォリシスが考え込む。
「北の空……光ってる、カーテンみたいな……そうか、オーロラだ!オーロラの見える地だったんだ」
「オーロラ……?」
聞いた事のない言葉に、神無は首を傾げる。
「はい。オーロラは別名“光のカーテン”。昼夜問わず極地の空にあり、夜の闇が濃い程、幻想的に見えるんです。どうして気付かなかったんだろう」
「じゃあ、今度こそ“光と闇の幻想の地”ね」
条件がピッタリな事に確信を持って、全員が頷く。
そうしてリムとフォリシスの回復を待って、今度こそ光と闇の試練を受ける為、オーロラの地へと赴く事にした。