オーロラの地に、果たしてその洞窟はあった。
薄暗い洞窟内を進めば、突然開けた場所に出る。
そこには祭壇が二つあり、橙と藍色の玉が光を放っていた。
そしてそれは、神無達が近付くと強い光を放ち、それぞれが形を成す。
我が名は光の守護精ライトーン
我が名は闇の守護精ダークネスト
ライトーンもダークネストも、共に人の形を成していた。
それぞれに特徴があって、まずその大きな違いとして、ライトーンが男性でダークネストが女性、という点だ。
ライトーンは銀の肩当と胸当てをし、武神のような姿なのに対し、ダークネストは首飾りに腕輪、シンプルだが美しい布のドレスという出で立ちは、さながら女神だ。
髪はお互い、その名を表すかのような金髪と黒髪。
だが顔の造形は人のそれとは違い、瞳は他の守護精と同じ硝子状のそれだ。
よくぞここまで辿り着いた
汝らが我らの力を求めるは如何に?
二種類の声は不思議な響きで、幾つもの声が重なっているように聞こえる。
そんな守護精達の問いに、神無は答える。
「虚無を封じる為に」
虚無か
アレは手強いぞ
「覚悟の上だ!」
ラティスがそう言えば、二人がフッと笑ったように見えた。
それでも成し遂げると言うか
よかろう。それでは我ら
光と
闇の
加護を受けるに値する者達かどうか
月の宝珠を持つに相応しい者達かどうか
順番に、交互に話していた言葉が一瞬途切れる。
試させてもらおう!
二つの重なった声がそう言うと、一気に視界が変わった。
フォリシスは目が覚めて、だが微睡みながら考える。
何か、夢を見た気がする。
……何だっけ?
だがその思考は、怒鳴り声に掻き消された。
「フォリシス!えぇい、起きんかこのバカ弟子!」
「ふぁい!」
「全く、いつまで寝ておる!そんな事では立派な魔法使いにはなれんぞ」
呆れたようなお師しょー様の顔。
いつもの朝だ。
「早く温室の薬草の手入れに行かんか」
「……はい、お師しょー様」
温室に入って薬草の手入れをしながら、フォリシスは考える。
「何だっけ……何か夢を見た気がするんだけど……何だろう、思い出さなきゃいけない気がする……」
何故だか焦燥感に苛まれていると、ふとある花が目に付いた。
「……オモイデスグリの花……?解呪に使ったハズじゃ……」
何気なくそう言って、違和感に気付く。
使った……?
何の解呪に?
呪いに掛かっていたのは誰だ?
「オモイデスグリの花……風切鳥の尾羽……淡水蛍の光……灰水晶……」
あと少しだ。もう喉まで出かかっている。
「……そうだ……女の子!記憶喪失で、名前は確か……」
リム。
思い出した名を呟くと同時に、忘れていた事を一気に思い出した。
「そうだ、光と闇の試練!今のが……?」
だがそう思ったのも束の間、今度は倒したハズのあの魔人が現れた。
『あのくたばりぞこないのジジィな、俺が粉々に吹き飛ばしちまったぜぇ?』
「――っ!お前っ!よくもお師しょー様を……!」
フォリシスは思わず魔術書のページを捲る。
だが。
「フーッ……ここで呪文を唱えたら、また同じ事の繰り返しですもんね……これが試練、か……」
これはかなり酷だ。
現実を思い出さなければ、ずっと幸せな夢の中にいられるのだから。