何もない空間に、神無は一人佇む。
「ここは……皆は?」
するとその問いに答えるかのように、声が頭の中に響く。
神無だけは他の四人と違い、ライトーン、ダークネストと対峙していた。
ここは我らの作り出した異空間
他の者は試練の最中だ
その答えに、神無は問いかける。
「で?私が受けるべき試練は何?」
しかし、それには意外な答えが返ってきた。
試練はない
使命がある
「え……それってどういう……?」
言われた意味がよく分からない。
試練を受けさせる為に呼んだのではなかったのだろうか?
自分一人だけ試練がないのは、その使命とやらのせいなのだろうか?
月の宝珠の話をしよう
主には知っておいて貰わねばならぬ
古の民の末裔として
宝珠を守る一族として
「ちょ、ちょっと待って!古の民?宝珠を守る?私そんなの知らない……」
頭の中が混乱する。
宝珠は元々七つの珠で、邪悪なる者を封じた為一つになり、月の宝珠と呼ばれるようになった。
その保管は代々ラノス王家の血を受け継ぐ者が、役目を担ってきたハズだ。
勿論、神無はラノスの人間ではないし、まして王家とは何の関わりもない。
我ら七精が宿りし珠が一つになり、月の宝珠となったのではない
月の宝珠の虹の七色に、我らが宿ったのだ
本来、宝珠を守りしはラノスの者にあらず
本来宝珠を守りしは、天空に住まう古の一族なり
今こそ語ろう
古の物語を
「……!」
すると突然、視界が光に包まれた。
それは古の物語。
月の宝珠にまつわる実話――。
試練を終えて、五人は元の洞窟にいた。
一つ訊ねる
夢を選ばなかった理由を
ライトーンとダークネストの問いに、神無以外の四人が答える。
「夢の中は確かに魅力的です。望んでいたモノがそこにあるんですから」
「現実は辛い事の方が多いし、傷付くのは本当は誰でも嫌なんだけどね」
「ですが、いくら夢の中で幸せでも、何の意味も持ちませんわ」
「俺達は、現実で生きているんだ。夢の中で生きても、それは死んでるのと同じだから」
皆、どこか傷付いたような瞳で。
それでもしっかりと前を見据えていた。
「皆……」
一瞬の静寂の後、橙と藍色の珠が空中に浮かび、光を放つ。
受け取れ、我らの珠を
そして示せ、主らの決意を
そうしてライトーンとダークネストは姿を消した。