「えっと、リム、さん……様?……リムでいいや。そんで?十五年経って、国を出たのは何でだ?」
 丁寧に話そうとして、結局いつも通りのラティスに、優しい笑顔を向ける。
「……事態が変わったからです。封印術は徐々にその効力を無くし、別の手を打たなければならなくなりました」

 それは、虚無の目的を阻む事。

「私の使命は三つ。一つは大賢者様の捜索。二つ目は宝珠の捜索。……そして最後に、十五年前国王自らの命により、一般の家庭に預けられた、二人の皇子の捜索」
「皇子を一般家庭にって……一体どうしてなんだい?」
 口調こそ変わらないが、態度はいつもの二割り増しというか何というか、そんなマリノスに複雑な思いになる。
「……王は、虚無の影響下に置いておきたくなかったのです。そしてまた、その存在を知られたくはなかった……その為、国王の命により、 二人の皇子も自分がそうとは知らないままに、別々の家庭に育っています」

 そう、二人は何も知らない。
 それでも国の為には必要な存在なのだ。
 後継として。

「……私は運が良かったのかもしれません」
 ポツリ、といった感じでリムはそう言った。
「私に掛けられた呪は、本来なら即死の効力を持つもの。ですが間一髪、それを防ぐ事ができました」

 そう、本当に間一髪で、リムにとってその代償は大きかった。

「その後、大賢者様の弟子であるフォリシスさんや、神無さん達に助けて頂いたばかりか、更に宝珠集めの目的まで達成され……」

 これには本当に運が良かったとしか思えない。

「本当に、皆さんには何とお礼を言えばいいか……ありがとうございました」
 そう言って頭を下げるリムに、何だか皆、照れてしまう。
「いいって、そんな……ところでさ、話聞いてて気になったんだけど……リムって何歳……?」

 どう計算しても、二十歳以上でなければ計算が合わないハズなのに、リムの見た目は十歳前後。
 一体どうなっているのだろうか?

 するとリムは何だか慌てたように言う。

「その……即死の効力を持つ呪を防いだ代償が、記憶喪失と幼児退行で……だから、あの……さ、三十一……なんです……」

「……」
「あの……?」
「……うっそだぁ」
「マジかよ……」
「僕より十歳近く年上……」
「……年相応には戻らないようだけど……」
 全員驚きで声が出ず、場には微妙な空気が流れる。

「……記憶が戻った事により、徐々に体の方も元に戻る事でしょう。それより神無さん、貴女は試練で何を見せられたのですか?」
「え……」
 リムの鋭い指摘に、神無はドキッとする。
「ライトーンとダークネストが最後にした質問に、貴女だけは答えなかった。夢か現実か……それを選ばされた私達とは違う何かを見せられたたとしか、 考えられません」
 その言葉に、全員の視線が神無に集まる。

 すると神無は、やれやれといった感じに肩を竦めた。
「まいったなぁ……その通り。私は試練を受けていない。その代わり、月の宝珠がなんなのかを教えられたの」

 神無は、ライトーンとダークネストに見せられた内容を話し始めた。