だが。
次の瞬間、神無から発せられた言葉は。
「ラティスは人殺しなんかじゃない!」
「……え……?」
自分の耳を疑った。
「そんなの事故じゃない!それにラティスは助けようとしたんでしょ?下手したら二人共流されちゃってたかもしれないのに……」
そんな風に言ってくれるなんて、思いもしなかった。
誰もそんな風に、言ってくれなかったから。
自分を育ててくれた人達は、娘が亡くなった事を悲しんで。
あからさまに責める事はしなかったが、苦しんでいるのは分かった。
それよりも周りの人間の方が、反応は顕著で。
“人殺し”だと、ずっと蔭で囁かれ続けた。
それを五年間、ずっと我慢した。
周りが言うように、自分は人殺しなのだと、ずっと自らを責め続けて。
そうして十五になった時を境に、旅に出る事にした。
一人で生きていけるように、五年間で色々な事を準備をして。
それから二年間放浪して。
彼女に、神無に出会えた。
「……ラティスはもう十分苦しんだでしょ?その子もきっと、もう許してくれるよ。……それに、いつまでも逃げてちゃダメだよ。ちゃんと前に進まなきゃ。
ラティスはその子の分まで、幸せになる義務があるの」
そう言って笑った神無を、ラティスは抱き締めた。
「……こんな俺で、いいのか……?」
だが、神無は首を横に振る。
「ラティスでいいんじゃない。私は、ラティスじゃなきゃ嫌なの」
「……神無……っ!」
ラティスは、神無を強く、強く抱き締める。
離したくない。
大切な人。
「……苦しいよ、ラティス……」
だが、ラティスは首を横に振る。
「泣いてるの……?」
「……ずっと、言えなかった。ずっと言いたかった……神無」
「……何?」
「好きだ。神無の事。……ずっと言えたらいいと思ってた」
その言葉に、神無は嬉しそうに、だが少しだけ恥ずかしそうに答える。
「……私、も……ラティスが、好き……」
二人は見つめ合い、そうして自然にキスを交わす。
幸せだった。
「……ずっと一緒にいよう。傍にいたいんだ……嫌?」
「嫌じゃ、ない……傍に、いたいよ……」
二人は暫くそのまま寄り添い合い、幾度もキスを交わした――。