何とか爆風に耐え、やがてそれが収まると、周囲には黒い煙が立ち込めた。
「……やった……のか……?」
リムが風の魔法で黒煙を払うと、もう魔人の姿はどこにもなかった。
「あれだけのエネルギーが、一気に放出され、爆発したのです。倒したと考えるのが妥当でしょうね」
そうリムが言うと、ラティスは神無に向き直る。
「怪我はないか?どこか、痛い所とかは?」
「ん、平気。ちょっと背中を強く打っただけ。背中も大した事ない……」
それを聞いて、ラティスは安心したように神無を抱き締める。
「ちょ、ちょっとラティス、皆が見てるよ〜っ」
好きな人に心配してもらったり、抱き締めてもらうのは嬉しい。
だが、人前だと流石に恥ずかしい。
それなのにラティスは、気にも留めていない。
「……もう少しだけ、こうしていたい……」
その声が少し震えていたのに気付いて、神無も少しだけ、と思った。
そうして後で色々言われてしまう羽目になるのだが。
城内を注意して進みながら、リムは小声で神無に話しかける。
「……いつの間にラティスさんと進展が?」
「あ、えっと。光と闇の試練の後、かな」
「……良かったですね」
「……うん」
一方、険悪なムードのラティスとマリノスの間に割って入る形で歩いていたフォリシスは、何とか場を和ませようとする。
「……神無さんに言えなかった事、全部話したんですね」
「あぁ……試練終わって、言うって決めたからな」
「……一体どんな話で同情させたんだか」
「マリノスさんっ」
「……そうだよな。お前は両親の話で同情させて襲おうとしたんだもんなぁ?そういう考えにもなるよな」
「ラティスさん〜」
まさに一触即発状態。
このままじゃマズイと思ったフォリシスは、小声でマリノスに聞く。
「神無さんの事、身を引くんじゃなかったんですか?」
「それとこれとは話が別」
つまり、頭で納得していても、心は納得していないという事だ。
フォリシスは思わず溜息を吐く。
あぁもう、本当にこの二人は――。
「……リムさん。玉座の間はまだでしょうか……?」
重い空気に耐え兼ねて、何だか泣きたくなってきたフォリシスは、気分を変える為にそう聞いた。
するとリムは立ち止まり、スッと手を上げ、正面の扉を指差した。
「あの扉の向こうです」
「――っ!」
全員が思わず息を呑む。
扉の向こう側。
玉座の間。
虚無はそこにいるハズだ。
「……皆、いい?行くわよ……!」
神無がそう問いかけ、全員が頷く。
そうして勢いよく扉を開け、皆それぞれに武器を構える。
だが。
玉座の間に虚無の姿はなかった。
「これは一体……?」
その時、窓の外が急に光り輝いた。
「まさか!」
リムは急いで窓に駆け寄る。
外を見ると大きな湖が見え、その中心にある小さな小島から、光の柱が立ち上っていた。
「やはり、天鏡の開く場所……っ!皆さん、急いであそこに!姉様の結界が破られてしまう……!」