『おのれ……地の民の分際でよくも……!』

あの霧こそが虚無の実体
今が封印の最大の好機!
 ライトーンとダークネストが合図し、七精達は再び虚無を封じようとする。

 だが。
『まだだ!まだ封じられはせん……!』
「!?」
 虚無はそのまま天鏡――空間の歪みによって発生した渦――の中に消えた。

「月に逃げたのか……!」
 悔しそうにラティスが言うと、七精達は否定する。
逃げたのではない
奴の目的は、月にあるもう一つの宝珠
「もう一つの、宝珠……」
 深刻そうに、神無がそう呟く。

 もう一つの宝珠。
 それは、破壊の力を持つという……。

 他の守護精達はライトーンとダークネストの言葉を引き継いで話を続ける。
月の宝珠、その対となる存在
破壊の力を持つその宝珠は、強い力を秘めています
かつて我らが奴を封じた時も、奴はその力を狙っていた
奴が宝珠の力を手に入れたら、それこそ取り返しが付かなくなるぜ
特に今のあやつは思念体。宝珠に直接取り付く事も出来るからのぅ
 ボルティック、ウィンディア、ウォーティスと続き、ファイアスティ、アーサムがそう語った。

「……それでも、行くしかないんでしょ?」
 そう言った神無の表情は、決意に満ちていて。
「まぁ、ここまできたら覚悟決めないとな」
 ラティスはそう言って神無を見る。
 一瞬目が合って、二人はお互いのみ分かるように微笑んだ。

 そんな二人の間にワザと割って入ったのはマリノスだ。
「二人だけで行かせる訳がないだろう?俺も行くよ」
「私も行きますわ。王家の者として、行かない訳にはまいりません」
「僕も。お師しょー様がいたら、絶対行けって言うでしょうしね」
 リムとフォリシスも揃い、結局全員で行く事になった。

「その前に少しだけ、時間を頂いてよろしいですか?国王と姉様をこのままにはしておけません」
 リムは倒れている二人に視線を走らせる。
「……そうだね。本当なら一刻も早く月に行かなきゃだけど……いいよ」
 リムには大切な家族で、今ボロボロに傷付いているのだから、助けたいと思うのは当然だろう。


 国王と姉のミラーラは、フォリシスとリムが手分けをして治療術をかける。
 すると、主な傷は殆ど塞がり、血色も良くなってきた。
「ん……リムール……?」
「姉様!国王……」
 二人が目を覚まし、リムは目に涙を浮かべて嬉しそうにする。
「リムール、その姿は……!?」
 ミラーラはいち早くリムの異変に気付いたようだった。
「姉様、この姿はご心配には及びません。大賢者様に呪いを解いてもらいましたから。元の姿に戻るのも時間の問題ですわ」
「では、大賢者様にお会いできたのですね?それで、大賢者様は?」
 だがリムは首を横に振る。

「……ですが、宝珠は全て集まりましたわ」
「……だが虚無は私の体から出て行った後……月へと向ったようだ……」
 国王は悔しそうにそう言う。
「あぁ……!虚無の支配を免れたのですね……!」
 ミラーラは喜びに打ち震え、涙を流す。
 国王はそんな妻の肩をそっと抱いてやった。