「……心配を掛けた……リムールも、大変だったろう」
「……私には頼れる仲間がいましたから」
国王とミラーラは、ここで初めてリムの後ろにいた神無達を見た。
「……その二人は、ラティスとマリノスか……?」
そうして、知らないはずの二人の名を言い当てた。
「……こんなに立派になって……!ずっと逢いたかった……我が息子達よ」
国王のその言葉に、リム以外の全員が息をのむ。
「息子って……」
「行方不明の皇子様って事ですか……?」
神無とフォリシスは、二人と国王を見比べる。
確かに似ていなくもない。どちらかと言えば、母親に似ている気もするが。
「……悪い冗談だ……」
「皇子……ね」
当の二人はというと、ラティスは頭を押さえ、マリノスは逆に薄く笑みを浮かべている。
「リムは当然、記憶が戻った時にすぐ分かったんだよね?」
「ええ……ですが、あの段階ではまだ、話すべきではないかと……黙っていてごめんなさい」
その場に、気まずい沈黙が流れる。
「……悪いケド、俺は皇子なんてガラじゃないし、今やらなくちゃならないのは虚無を止める事だ。そうだろ?」
そう言うラティスは、決して国王達を見ない。
「リムは悪くないさ。俺達を気遣ってくれたんだろう?」
マリノスは笑顔でそう言う。
「どの道、二人には時間が必要ですよ。受け入れて、キチンと自分の中で心の整理をする時間が。……急に言われたんです。虚無を何とかした後なら、
時間は十分にありますしね」
フォリシスのフォローに、不安そうに沈んでいたリムの表情が和らぐ。
「……じゃあ行こう。虚無を止めに、いざ月へ!」
神無のその掛け声に、全員が表情を引き締めた。
「……我々の代わりに、お願いします」
国王がそう言って頭を下げる。
「ラティス……マリノス……リムール……他のお二人も、どうか無事に……」
ミラーラもそう声を掛けてくる。
「はい、姉様」
「出来る限りの事はします」
「お二人は、今は体を休めて下さい」
「……」
三人は返事をするが、ラティスとマリノスは無言だった。
何を言えばいいのか、どう接すればいいのか分からない。
そんな表情で。
五人は月へと続く天鏡の前に立つ。
「行こう。全てを終わらせる為に」
「全員、気を付けて下さいね」
「皆で、再び戻ってまいりましょう」
「止めてやろうぜ、絶対」
「ま、大丈夫だと信じているけれどね」
それぞれの決意を胸に、五人は順番に渦の中に入る。
「……神無、どうした?」
神無の表情の中に不安のようなものを感じ取って、渦の中に入ろうとしていたラティスは踏み止まる。
「ん……平気。ちょっと緊張かな?さ、私達も早く行こ?」
「あぁ……」
神無はさり気なくラティスの手を取り、二人一緒に渦の中へと入る。
その場に残されたラノスの国王と王妃は、五人に希望を託し、空に輝く月を見上げて祈る。
「どうか彼らに、月の加護を――」
月はただ静かに、蒼白く。
白銀の光を放っていた。