第十四章〜古の地〜


 渦の中で突然眩い光に包まれ、思わず閉じた目を開いた先にあった風景に、フォリシスは少なからず妙な既視感を覚える。

 何だ、ココ。
 見た事がある……?

 そこにあったのは一つの集落。
 家の造りは独特で、土壁と、わらぶき屋根でできていた。
「神無さん……ここって、まるで……」

 まるで、清涼の里だ。
 しかも何だか、建物の配置まで同じような気がする。

 だが、神無は何も答えなかった。
「行こ」
 ただそう言って、まるで道が分かっているかのように進んで行く。

 それに付いて行きながらも、他の四人は驚きを隠せない。
「……おい、ここに来んの初めてのハズだろ?どうなってやがんだ」
「神無はまるで、道を知っているみたいだけれど……?」
「フォリシスさんは、心当たりが?」
「ええ……ここ、何だか清涼の里にそっくりなんです。雰囲気だけじゃなく、建物の配置、地形、何もかもが……断言はできませんが」

 もしそれが本当なら、神無にとっては生まれ故郷も同然。自分の庭みたいなものだろう。
 当然、どこへ向かうべきなのかは分かるハズだ。
 それに今は一刻を争う。
 そうするより他に、方法がないのだ。


 神無は大通りを、細い路地を、どんどん奥に向かって進んで行く。
 やがて、他とは明らかに違う造りの建物の前に出た。
 その建物だけは木でできており、どこか神聖な雰囲気だった。
 だが今、その建物の前には、月の一族と思われる人々が無残に倒れていた。
「ひでぇ……!」
「虚無の仕業なのか……?」
「まだ息があります。フォリシスさん!」
「はい!」
 フォリシスとリムは、手際よく人々の治療を始める。

 そんな中、神無は一人、建物の戸を開け叫ぶ。
「虚無!」

 そこで神無が見たモノ――。
 それは宝珠を取り込もうとするかのように包み込む、邪悪な黒い霧だった。

『もう遅い』

 神無は虚無が微笑うのを見た。
 破壊の力を持つ宝珠は、今や完全に虚無に取り込まれ、その力を持って、黒い霧は実体を持つ。
 それは、一人の青年の姿だった。
 恐らくはこの姿こそが、虚無本来の姿なのだろう。
 だがその青年に色はなかった。
 黒い、まるで影のような姿。
 そうして、彼が一振り手を上げただけで、神無はその場から吹き飛ばされてしまった。
「きゃ……っ!」
「神無!」
 いち早く気付いたラティスが神無を受け止め、衝撃でその場に倒れ込んだ。
「……ってて……神無、平気か?」
「うん、何とか……でも、虚無が宝珠を取り込んだ」
「!」
 神無の言葉に、一同は身構える。

『ふ…はははははっ!これだ……この力こそ、我の求めていた力だ……!』
 破壊の宝珠を取り込んだ事で、虚無の姿は今や禍々しい化物と化していた。
『力がみなぎる……丁度いい。この力、貴様らで試してやろう……!』
 その力の強大さを肌で感じ、神無達は武器を構え息を呑む。

 だが次の瞬間――。

『な、何だこれは!?バ、バカな、そんなハズ……っ!』
 虚無は苦しみ出し、その姿はさらに変貌を遂げる。

 それは、ワニのような顔に細長い口髭、頭部には二本の角とたてがみで。
 胴体は蛇のように長く、その体は鱗に覆われており、手足は鳥の鉤爪のように鋭くなっていた。
 そして、その色は輝くような紅――。

「……神龍……」
 神無は思わずそう呟く。

 それは、清涼の里に伝わる古い神の名だった。