その龍の美しさに皆、目を奪われ、暫し呆然とする。
 よく見ると、輝くような紅は虹色をも宿していた。

 だが神龍は突然暴れ出し、周囲を破壊し始める。
「!破壊の宝珠が……紅珠が暴走してる!?」
 神無の言葉に、皆ハッと我に返る。
「暴走!?それって……」
「だって、あれは虚無なんだろ?奴がやってる事じゃ……」
「……あの姿は紅珠の力が具現したモノ。虚無には制御しきれなかったのよ……紅珠は逆に虚無を取り込み、放たれた力だけが暴走してる……」
「そんな……じゃあ、虚無はもう……」
「意思を持たない、ただの怪物……?」
 その事実に、全員が衝撃を受ける。
 実に呆気ない幕切れだ。
「でも意思を持たない分、厄介な相手だな」
「……待って下さい、じゃあどうやって止めるんですか!?」

 暴走をしている巨大な怪物。
 それと戦うのはかなり分が悪い。

「……一つだけ、方法があるわ」

「方法?」
「月の宝珠……朱珠の持つ本来の力を使って止める事。朱珠は元々、紅珠の制御の為の物なの。封印の力はその二次的な物よ」
 神無の説明に、全員が戸惑う。
 いくらなんでも、詳し過ぎる。
「神無……お前……?」
「詳しい説明は後。とにかく今はコレを止めなきゃ!」
 神無は今までに見た事のない、険しく、そして辛そうな顔をしていた。
 その表情に、ラティスは不安になる。
 同時に、いつだったか神無の様子に違和感のようなモノを感じた事があるのを思い出す。
 確か、光と闇の試練の後だ。

 何を隠してる――?

 口には出さずにそう思って、ラティスは頭を振る。
 今は、考えてる場合じゃない。

「今こそ、七つの宝珠を一つに!」

 七つの珠は光り輝き、やがて一つになる。
 だが、紅珠の暴走が止まる気配は一向になかった。
「……どうして!?」
 これで止められなければ、もう本当にどうする事も出来ない。

 しかし、何かに思い至った神無が口を開く。
「……そうか、七精の力!虚無を封じる為に取り入れた七精の力が、今は逆に紅珠制御の妨げになってるとしたら……」
 だが神無以外には、それがどういう意味なのか分からない。
「いい?朱珠本来の力は紅珠の制御。封印の能力は、言ってみればただのおまけ要素なの」

 制御と封印は似て非なる物だ。
 だからこそ、その意味はきちんと理解する必要がある。
 必要な時に、必要な方の能力を使う。
 それが朱珠の役割だ。

「でも、虚無の封印の為に七精の力を取り入れた事で、オマケの能力の方が本来の力を上回ってるの。だから紅珠の制御に支障をきたしてるんだと思う」
「では、七精の力を切り離せ、と?」
 神無は頷く。
「ですが、そうすると守護精達は……!」
「分かってるわよ!そんな事……」

 守護精達は元々、自然界の七つの要素。
 宝珠、つまり朱珠の持つ虹の七色と呼応し、朱珠に取り入れられる事で形を成し、守護精として誕生し、珠に宿った。
 力を切り離すという事はつまり。
 守護精達が実体を失い、存在しなくなる、という事だ。

 今まで自分達を守護し、助けになってくれた存在。
 だからこそ余計に神無達ができないでいると、突然守護精達が姿を現した。