「皆……っ!」
 神無達だけではなく守護精達も、どこか悲しげな表情だった。

ラティス。我が水の加護を受けし者。水の恩恵と、脅威を知る者よ……
「ウォーティス……」
 水の守護精ウォーティスは、真っ直ぐラティスを見つめる。
……よく過去を乗り切った。我の姿なくとも、我は水の在る所、全てに存在する。清らかなる水の加護、忘れるな……
 そう言うとウォーティスは、水が弾けるように姿を消した。
「ウォーティス!ありがとう……」

マリノス!我が火の加護を受けし者。恐れず敵に立ち向かう者よ!
「ファイアスティ」
 火の守護精ファイアスティは、熱い眼差しを向ける。
恐れるな、立ち向かえ。激しき炎、火の加護は汝の情熱に答えるだろう!
 そう言ってファイアスティは、火の粉が飛び散るように姿を消す。
「……ああ。俺は何事にも恐れないよ、ファイアスティ」

リム。我の雷の加護、受けし者、雷を、操りし者よ
「……ヴォルティック」
 相変わらずまともな形を成さないまま、ヴォルティックは話す。
己を取り戻したか。だが、姿はまだ偽り。冴え渡る雷の加護。雷の持つ意味と共に……
 ヴォルティックは一瞬スパークし、その姿を消した。
「雷の意味は厳しさ……承知致しましたわ、ヴォルティック……」

神無、風の加護を受けし者、心地よい気を発する者よ……
「ウィンディア……ごめんなさい……っ」
 俯く神無を、ウィンディアはその翼で包み込む。
よいのです、神無。風は一ヶ所には留まらぬモノ。吹き抜ける風の加護は、いつでも傍に在る事を、貴女ならきっと感じるハズです
 ウィンディアは全員を見渡し、そして風が四散するように姿を消した。
「今まで翼になってくれてありがとう、ウィンディア……」

フォリシス。わしの大地の加護を受けし者、心優しき者よ
「……心優しき者、ですか?アーサム」
……お前さん、何故わしが選んだか分かっておらんかったのか?……まぁよいかのぅ。何といっても、大らかな大地の加護だからの。 大地のように大らかに構える事を、心に留めておけばよいて
 そう言って笑って、アーサムは大地に還るかのように姿を消した。
「忘れません、アーサム。貴方の教えを……」

 それぞれの守護精達が別れを告げ、姿を消すと、ライトーンとダークネストが話し出す。
我ら、光と
闇の加護を受けし者達
我らが試練を受けし者達
そして我らに認められし者達よ
「ライトーン……ダークネスト……」
 二人はそれぞれ、全員を見回した。
悲しむ事はない
我らは自然へと還るのみ
光はいつでも主らを照らす
闇はいつでも主らに安らぎを与える
我らは常に
主らと共に
そして託そう
未来を
 ライトーンは光、ダークネストは闇に、それぞれ溶け込むように姿を消す。
 最後に、神無を見つめて。
「……ライトーン、ダークネスト……使命は、必ず」
 そう呟き、静かに涙を流す神無の肩に、ラティスはそっと手を置く。
「……ラティス……」
 悲しんでいる暇はない。未だ止まらぬ紅珠の暴走を何とかする方が先だ。

「……守護精達の為にも……朱珠よ、今こそその本来の力を発揮せよ!」

 神無が朱珠を掲げると、朱珠は輝きを増し、光を放つ。
 その光を受け、紅珠は元の珠の形に戻った。
 暴走は止まったのだ。
「……やった……」

 だが暫くは皆、複雑な思いだった。
 神無はラティスの胸元に顔を埋め、ラティスはその肩を優しく抱く。
 マリノスはやり場のない悲しみに顔を歪ませ、リムは沈痛な面持ちだ。
 フォリシスは、嗚咽を堪えて泣いていた。

 それでも。
 長かった旅に今、終止符が打たれた事は確かだ。


 戦いは、終わったのだから。