虚無を止めようと怪我をした人々の治療も一段落し、五人は天鏡の所へと歩いていた。帰る為だ。

「……神無さん、もう全てをお話頂いてもよろしいのでは?」
 リムの言葉に、全員が神無を見る。
「……隠してても仕方ないよね。……光と闇の試練で私が教えられた事は、他にもあったの」
 そう言って神無は、一つずつ話し始めた。


 二つの宝珠は、その正式な名を“焔の対珠”という。
 “焔”というのは、紅珠のその色合いとも、宝珠を生み出した者の名とも言われている。
 そして、破壊を司る珠を“紅珠”、その力を制御する珠を“朱珠”といい、紅=攻・朱=守と対になっている事から“対珠”と呼ばれるようになった。

 月の一族の管理下にあったその対珠だが、ある時別々に離れてしまう。
 それこそが虚無を封じた五百年前の出来事であり、その時一部の月の一族が大地に移り住んだ。
 その一部の者達というのは、大地の魔法使い達と協力し、宝珠に守護精を宿らせた者達だ。
 彼らは東の端の小さな島に居を構え、そこを清涼の里と名付けた。
 そうして大地の者達と交わり、いつしか月の一族という事も忘れられ、今では外界との接触も殆ど絶っている。


「私が宝珠の事を教えられたのは、私が月の一族の末裔だから……。それに私にはその月の一族の血が色濃く出ているって」
「……先祖返り、ですね」
「そう。その為、常人には分からないけど、月の一族特有の不思議な気を放っているって」
 神無の説明にフォリシスは納得する。
「だからここは清涼の里に似て……いや、清涼の里はここに似せて造られた、と言った方が正しいですね。それに……お師しょー様が言っていた、 神無さんから感じる不思議な気の流れ。予知に結びついたのはそれだったんですね」

 大賢者の『まだその時ではない』という言葉。
 それはつまり『神無の成長を待つ』という意味だったのだ。
 その事が分かり、フォリシスは嬉しくなった。


 そうして気付けば、もう天鏡の前だ。
「やっと帰れますわね」
 そう言ったリムは嬉しそうで。
「あー取り敢えず暫く休みたい……」
 ラティスはそんな事を呟く。
「……まだ色々とあるだろう。皇子がどうとか……」
 少し複雑な顔で言ったのはマリノスだ。
「僕は……どうしようかな……」
 フォリシスは少なからず困惑していた。
 そして。

「……私、ここに残るわ」

 神無のその発言に、全員が耳を疑う。
「神無、何言ってんだ……?」
 中でも一番動揺しているのは、他でもないラティスだ。
「焔の対珠、紅珠と朱珠はその名の通り、対にしておくべき物。そうして私は月の宝珠の次代の管理者という使命を、ライトーンとダークネストに託されているの」
「使命って……」
「月の宝珠が朱珠本来の状態に戻り、月にある今、保管と管理はここで行われるべきなの。だから……」

「なら、俺もここに残る」

 言ったのは勿論ラティスだ。