だが神無は反対する。
「ダメだよ、ラティスは帰らなきゃ。お父さんとお母さんが待ってるんだから……それに、ラティスはラノスの皇子様なんだから」
「そんなの……!」
「天鏡が開いてれば、いつでも逢えるんだから。ね?」
「う……」
笑顔でそう言われてしまえば、無理に残れない。
「ですが、神無さんのご両親は……?」
「だってもう縁切られちゃってるし。帰らないって約束したし」
「……そういえばそうでしたね……」
フォリシスは清涼の里を出た時の、あのあっさりとした別れを思い出す。
「……では、お別れなんですね」
リムは名残惜しそうに言う。
「絶対に会いに来るよ、神無」
マリノスはそう言って神無の手を握る。
「神無……」
ラティスは不安そうに神無を見つめる。
先程から、言い表しようのない不安が胸に広がっていた。
「……心配しないで」
神無はラティスに抱き付きそう言って、彼に口付ける。
「ね?」
「……あぁ……」
返事はしたものの、ラティスの表情はどうしても浮かばない。
何故だろう。不安を消せない。
何か、よくない事が起こるような。
嫌な予感。
そんな中、神無は仲間達と別れを告げる。
「では、お元気で」
フォリシスはそう言いながら、今にもラティスに飛び掛って行きそうなマリノスを連れて天鏡に入る。
「神無!君に逢えて良かったよ!」
フォリシスに連れられたマリノスは、天鏡に入る直前、何とかそう言った。
「神無さん、本当に色々とありがとうございました」
「うん。リムも早く元の姿に戻れるといいね」
そうして別れを告げ、リムも天鏡に入った。
最後に残ったのはラティスだ。
「じゃあ、神無……」
「うん。元気でね、ラティス」
笑顔で手を振る神無に不安を感じながらも、ラティスが天鏡に足を踏み入れたまさにその時。
「……バイバイ、ラティス」
「!」
振り返ったラティスが見たのは、泣きそうに顔を歪めた神無の表情だった。
「かん……!」
手を伸ばすがもう遅い。
ラティスは完全に天鏡の渦の中。
後はもう一気に大地に戻るのみ。