次の日。
「神無」
宿の前で名前を呼ばれて声のした方を向くと、そこには昨日会った少年がいた。
「え…っと、ラティス、だっけ……?」
「お知り合いですか?」
後から出てきたフォリシスがそう聞く。
「知り合いっていうか……昨日会った人」
神無がそう答えてラティスの方を向くと、ラティスは変な顔をしていた。
「何だ、男連れかよ……」
「は?」
「あーあ、ダメじゃん。折角いい相手が見つかったかと思ったのに……」
何故だか勝手にガックリしているラティスに神無は訝しげな視線を向ける。
「ねぇ一体何なの?」
「……あーいいよ、別に。彼氏持ちならもうどーでもいい」
「……彼氏?」
話が見えない神無は眉を寄せる。
「……あのー。別に僕達は恋人同士ではありませんよ?」
そう言ったのはフォリシスだ。
「……マジで?」
「マジです」
「何だ、そうならそうと言えよなー」
「???」
神無は全くワケが分からず、首を傾げたままだ。
「だから一体何なの?」
「俺今一人旅でさ、仲間探してたんだ。という事で、一緒に行ってもいい?」
突然の提案に、というより、先程から全く質問に答えて貰えない事に神無は脱力する。
「……何が、という事で、なのよ……」
「いいですよ」
「って、ええ?」
だがフォリシスはあっさりと承諾し、神無は驚く。
「ちょ、いいの?」
「ええ」
ニコニコとした顔で言われ、神無は驚きを通り越して呆れるしかなかった。
そもそも神無がセリークルに着くまでの船の上で改めて聞かされた話とは。
月の宝珠は七つの珠の集まり。
それぞれの珠には守護精が宿っており、彼らはある者を封じていた。
それは邪悪なる存在。
世界を破滅へと導く者。
十五年前、月の宝珠が七つの珠に分かれた事で、その者も復活した。
その影響か、近年魔物は増加傾向にあるという。
十五年という歳月を経て、その者も十分な力を付けているだろう、というのが大賢者の見解。
というものだ。
危険な旅になるのは目に見えている。
それなのに。
「いいの……?そんな簡単に……」
せめて旅の危険性を説明してから一緒に来るかどうか聞いた方がいいのではないのだろうか?
しかしフォリシスは大して気に留めていないようだった。
「旅は道連れ世は情け。来る者は拒まず去る者は追わず。何より大勢の方が楽しいですし、安全です。……僕はフォリシス=アルシフォネ。君は?」
「ラティスだ。よろしくな」
「よろしく、ラティス君。ところで僕達は目的のある旅をしているんですけど、それでもいいですか?」
するとラティスは一瞬だけ難しい顔をした。
「……別に?俺の方は特に目的はないから、付いてってもいいなら」
ラティスの言葉に頷くと、フォリシスは、もう一つ、と言って質問する。
「危険な旅になるかもしれませんが、それでもよろしいですか?」
「……今それを聞くんだ……」
神無は思わずそう呟いて呆れる。
そうしてラティスを見ると、彼は不敵な笑みを浮かべていて。
「望む所だ」
ハッキリとそう言った。
こうして旅の仲間は三人となり、ラティスには道中で、旅の目的を説明する事にした。