「えぇ!?ラティスも家出なの?」

 それは道中、レミ平原という場所を通っている時だった。
「そんなに驚く事か?……というか、も、って何だ。も、って」
 思わず大きな声を出してしまった神無の反応に、ラティスは眉を寄せる。
「いや、私も同じようなものだから」
「……一応別れは告げてましたよね」
 あっさりとした神無に、フォリシスが付け加える。
「……元々俺に両親はいない。だから家出じゃないし……そもそも俺があの家にいる資格なんて……」
 だがラティスはそう言うと、辛そうな顔をして口篭ってしまった。
「ラティス……?」
 神無が声を掛けようと口を開きかけた時。
「人が倒れています!」
 フォリシスが前方に倒れている人を発見した。

「大丈夫ですか?しっかりして下さい」
 急いで駆け寄り抱き起こすと、年は十歳前後だろう、女の子だった。
「う……」
「……どうやら気を失っているだけのようですね。とはいえ、とにかく早く街へ運びましょう」
 神無達は急ぎレミ平原を抜け、ようやく次の街、マウンレギオに着いた。


 マウンレギオはヒューレ山脈の麓に位置する街だ。
 北へはそのヒューレ山脈を越すしか道はないので、街は山越えをする人でいつも賑わっている。

 その街の宿で少女を介抱し、医者に診てもらった。
「ふむ……外傷もないようだし、暫く安静にしておれば、じきに目を覚ますでしょう」
 医者にそう言われ、神無達はホッと胸を撫で下ろす。
「よかった。目を覚ませば家に帰る事も可能でしょうし、ご家族の方が心配して探しているかもしれませんしね」
「でも、何であんな平原のど真ん中に?あそこで家族とはぐれるっていうのは考えにくいと思うケド?」
「この街からでも、子供が一人で出歩くにはちょっと遠いよね……」
 そんな事を話しながら様子を覗っていると、少女が目を覚ました。

「ん……ぅん……こ、こは……?」
 少女は起き上がると、暫くぼんやりと周囲を見回す。
「気が付いたんだ。よかった、大丈夫?」
「あ、えっと……はい」
 自分の状況を把握しきれていないのか、少女は少し困惑した表情で。
「貴女はレミ平原で気を失って倒れていたんです。それを丁度通り掛った僕達が見つけてここ、マウンレギオの宿屋に運んだんです。で、僕はフォリシス。 こちらが神無さんで、そっちにいるのがラティス君です。貴女のお名前を聞かせて頂いてもいいですか?」
 フォリシスが簡単に状況説明をして、自己紹介をする。
「私はリムと申します」
 その丁寧な言葉遣いに、三人はリムがいいとこのお嬢様じゃないかと思う。
「出来れば何があったのか教えてもらえませんか?」
 フォリシスがリムにそう問う。が。
「何が……?……っどうし、て……何も思い出せない……!私…私は……!」
 そう言いながら、リムと名乗ったその少女は頭を抱えてしまった。


「記憶喪失、ねぇ……」
 再び医者に診てもらうと、リムはそう診断された。
 結局リムは、名前以外を思い出す事は出来ず。
「何か、余程強いショックでも受けたんでしょうね」
「で、どうすんだよ」
 三人はリムをどうしようか悩んでいた。

 どうやらリムは、少なくともここ、マウンレギオの住民ではないらしい。
 実はリムの服装は旅用の軽装で。
 しかもその様式は、マウンレギオで売っている旅用の物とは違っていた。ちなみにセリークルの物とも違い、この辺りの出身ではないという事だ。
 ただでさえ記憶喪失なのに、見知らぬ土地に放り出す訳にもいかない。

 どうしたものかと頭を抱えていると、リムがおずおずと声を掛けてきた。
「あの……」
「何でしょう?」
 フォリシスが柔らかな笑顔で受けると、安心したのかリムは肩の力を抜く。
「……ご迷惑でなければ、暫く同行させて頂いても宜しいでしょうか……?」
「いいですよ。来る者は拒まずがモットーですから」
 そう言ってラティスの時同様、フォリシスはあっさり承諾した。