学校が夏休みに入ると、生徒会では夏合宿というものがある。
一泊二日のこの合宿。
内容は主に、二学期に行われる行事に関する話し合いだ。
まぁそれを名目に、息抜きと称して少し遊んだり、夜に花火なんかもやったりするのだが。
そうして合宿当日。
やってきたのは毎年生徒会合宿で利用させてもらってる民宿だ。
着いてすぐに話し合いを始めて。
「十月の体育祭と、十一月の文化祭。取り敢えずこの二つの大まかな内容を決めよう」
琴音がそう言うと、早速太陽が質問してきた。
「大まかな内容て、どんなん決めるんです?」
「例えば、体育祭だったら競技内容とそのプログラムの順番。文化祭だったら、生徒会が掲げる今年のテーマや、前夜祭のハロウィン祭をどうするか、だな」
そう。去年もやったけど、ハロウィン祭を考えるのが一番面倒臭いんだよな……。
「去年はどうやって決めたんですか?」
「自分達が一年の時のを参考にしたよな?」
「ああ。それで、前年度の生徒会の反省点とかを考慮して、改善したんだったな」
「……これ、ですか?」
満月ちゃんが取り出したのは、合宿に来る前に学校に寄って持ってきた前年度の生徒会資料だ。
ただ。
「これ……何だか見辛いですね」
そう。資料の作成は書紀の仕事なのだが、前年度の書紀はあまりそういうのが得意ではなく、あまり要点が纏められていないのだ。
「そうだな……よし、満月は取り敢えず、それを分かりやすいように纏めてみてくれないか?」
「分かりました。やってみます」
「分からない部分は聞いてくれ。大抵の事なら私も弓近も覚えているし」
一応、当事者だからな。そのくらい当然だ。
「せやったら、まず体育祭から決めません?競技内容の候補挙げとかくらいやったらできますし」
「そうだな。それじゃあ、太陽。お前なら、色々知ってるんじゃないか?」
「任せといて下さい。定番のモンから変り種まで、色々知ってますさかい」
こういう時、しょっちゅう転校していたという太陽の知識は役に立つ。
恐らくコイツが企画発案・実行に長けてるのは、そういう面からきてるんだろう。
暫く四人で体育祭の競技内容について話し合っていると、満月ちゃんが昨年度の資料の要点を纏め終えた。
「あの、これでいいですか……?」
「どれ……うん。明らかに見やすくなったな。どう思う、弓近」
「……ん。これなら誰が見ても分かりやすいと思う」
満月ちゃんが作成した資料は凄く分かりやすくなっていて。
これから資料は彼女の作成した物を見本に作るといいだろうと思う出来栄えだった。
「コレとアレが同じ資料なん?ほー……満月ちゃん、凄いやん。なんやコレ見ると、満月ちゃんの授業ノートも見てみたなってくるなぁ。
勉強すんのに教科書より分かりやすそうやん」
太陽の感想に、星がボソッと呟くように言う。
「お前のノートとは大違いだな」
「なんやと!?お前のノートかて、簡潔すぎてよー分からんやないけ!」
「自分が分かればそれでいい」
「俺かて、自分のくらい自分で分かるわ!」
だが星は、喚く太陽を無視して満月に言う。
「他人にも分かりやすく纏められるのは凄いな」
そう褒められた事に、満月ちゃんは真っ赤になって、物凄く嬉しそうだ。
「あ……ありがと……っ星、君……」
ここぞとばかりに星の名前を呼んで、さらに顔を真っ赤にさせる所は本当に初々しいと思う。
それを温かい目で見守るのは、勿論俺だけじゃなくて。
きっと琴音や太陽も同じだろう。
ただ可哀相な事に、星は満月ちゃんの気持ちに気付いていないんだろうが。
「……さて、分かりやすい資料も仕上がった事だし、ハロウィン祭の方も進めないとな」
琴音の一言に、全員が企画発案に意識を切り替える。
「ハロウィンて、あれですよね?仮装して各家を回ってお菓子貰う行事」
「そう。昨年、学校中で仮装したのは憶えてるだろう?でも今年も同じのをやる訳にはいかない」
「ちゅうか、仮装なんて次の日から始まる文化祭でお化け屋敷やるクラスが得するんちゃいます?」
「宣伝にもなる、か」
太陽と星の感想に、俺と琴音は眉を寄せる。
「逆だったんだよ。確かに宣伝にはなるが……お前ら、事前にお化け屋敷のお化けの種類分かってて、面白いと思うか?」
「あ……」
「確かに、その一瞬ではビックリするやろうケド……終わってからあんま面白ないって思うかもしれへんなぁ……」
そう。
お化け屋敷のお化けをハロウィン祭の仮装で披露してしまった為に、あまり好評ではなかったクラスがあったのだ。
外部からの客にはそれなりに好評だった為、後で文句が出たのだ。
「ほんなら、文化祭に影響あらへんような企画考えんとあかんな」
「ハロウィンかぁ……かぼちゃとオバケとお菓子のイメージしかないなぁ」
全員が頭を捻らせていると、星がボソッと言う。
「……ゲーム」
「ゲーム?」
「お菓子を景品にして、ゲームとか」
星のその提案に、琴音は面白そうにニヤリと笑って。
「ゲームか……面白そうだな」
「全員参加型だと……チーム組んで、とか?」
「せやな。運動系のゲームやと大変やし、クイズとかええんちゃいます?」
「クイズ、ねぇ……それならいっそ、校内宝探しゲーム、とか」
「お、ええですね。生徒会から簡単な暗号出して、何ヶ所か回ってもろて、スタンプ集めてもらうのとか」
「それより、ゴール地点も暗号にしちゃったらどうですか?暗号を解いて辿り着いた場所で、ミニゲームをクリアしてキーワードを手に入れるっていう」
「ゴール地点で、全員に景品のお菓子を渡すのか?」
「一番早く辿り着いたチームには、文化祭での飲食タダ券、とか」
「いいな、それ。なら、暗号を考えないとな」
そうして、一番悩むと思われたハロウィン祭については、あっさりと決まってしまった。
その事に俺は初めて、もしかして今回の生徒会はかなり相性のいいメンバーが揃っているのかもしれない、と思った。