予め予定していた話し合いは、意外に早く終わり。
俺達は早々に遊びに出かける。
といっても、近場には海水浴のできるような砂浜はなく。
あるのは狭い入り江だけで、泳ぐのには向かない。
といっても、簡単な水遊びくらいなら可能だ。
「この辺りって、観光のメインは何なんですか?」
「そうだな。釣りか登山、でなければ少し足を伸ばして海水浴、だろうな」
よくよく考えれば、あまり学生には楽しめない場所かもしれない。
でもそもそも合宿は話し合い目的だし、毎年結構長引くから、誘惑の少ない方がいいんだよ。
遊びに行きたくなるから。
「せやからこの入り江には、誰もおらへんのやな」
「結構穴場だろ?夜はここで花火するんだ」
花火は事前に買い込んであるし、海辺で花火ってのも結構楽しめる。
何と言っても、水面に花火の光が映るのは綺麗なんだ。
勿論、後片付けはするぞ?ゴミは持ち帰るのがマナーだからな。
「去年は砂の城を作ったな。チーム戦で」
琴音の言葉に、俺は去年の事を思い出す。
確かじゃんけんで組分けして、どっちが凄い砂の城を作るか競ったんだよな。
……それぐらいしかやる事なかっただけなんだが。
「確か、相手のチームが勝ったんだよな」
「あれは向こうがずるい。実は全員経験者な上に三人がかりだぞ?ハンデがありすぎだ」
当時の事を思い出してか、琴音はムッとした表情になる。
それもそうだろうな。
こっちは俺と琴音だけだったし、二人共砂の城なんて作った事なかったから、要領が全く分からなかったんだ。
「なら今年もやるか?」
「そうだな……どうする、お前達」
琴音に聞かれて、三人はそれぞれ反応を見せる。
「よっしゃ!やったろーやないですか!」
「え、えっと……やり方分かんないですけど……教えてもらえるなら」
「……見学で」
「星、ここは参加に決まっとるやろ!」
「じゃあ全員参加だな」
いち早く抜けようとした星だったが、太陽と琴音の連係プレーで参加が決まって。
俺は憐れみを込めてその肩を叩く。
「諦めろ、星。あの二人が組んだら誰も勝てないと思うぞ?」
「……そっすね」
星にそう言いながらも、二人で盛り上がっている琴音と太陽を見て、俺は胸の中にモヤモヤとしたものが広がるのを感じた。
琴音も太陽もノリがよく、かなり気の合う二人だとは思う。
だけど。
もし太陽が琴音を好きになったら?
琴音も、俺より太陽といる方が心地良いと感じたら?
宣言の事があるから、二人が付き合う事はないだろうが……それでも俺は……。
そんな事を考えて、深刻な表情になっていたのだろう。
いつの間にか琴音が傍に来て、俺の顔を覗き込んでいた。
「弓近?気分でも悪いのか……?」
その表情はとても心配そうで。
何考えてるんだ、俺は。
俺はすぐに、心配ないというように笑みを浮べる。
「何でもない。どういう城作ろうか考えてただけだ」
「……そうか。張り切ってるな」
琴音はホッとしたように言うと、笑みを浮べる。
「じゃああの三人に作り方教えて、始めるか」
「そうだな」
悪い、琴音。
心配掛けて。
だけど嫌なんだ。お前が他の男と楽しそうに話してるのを見るのは。