砂の城の簡単な作り方を教えた後で、太陽がある提案をする。
「やっぱり、個人戦にしません?ただ、それやと満月ちゃんにハンデあるし、星もサボるかもしれへん。せやから、そこだけペアっちゅー事で」
「えっ!?」
 それに慌てるのは当然満月ちゃんで。
 だが琴音が楽しそうに言う。
「そうだな。私も弓近も経験者だから別に大丈夫だし、太陽が一人でいいならその方が対等かもしれないな。弓近はそれでいいか?」
 そう言いながら、俺に同意を求めてくる琴音の意図は、簡単に分かる。

 大方、満月ちゃんと星の距離を近付けようって魂胆だろう。
 元々、その辺りも狙って生徒会に引き込んだんだろうし。
 ここは協力するべき、かな。

「俺は問題ないぜ?じゃあそういう事で、ちゃんと協力して作れよ、星」
「……はい」
「え、えっ?」
 戸惑う満月ちゃんをよそに、強引にそう決めて。
「制限時間は一時間、といった所か。じゃあ始め!」
 そうしてさっさと砂の城作りをスタートさせてしまった。


 自分のを作りながら、星と満月ちゃんのペアを見てると、それなりに上手く協力して作っているようだった。
 星は一見、協調性はないように見えるが、そんな事はないらしい。
 なかなかいい雰囲気だ。
 それが後に恋愛関係に発展するかは、満月ちゃんの努力次第、だな。

 ……努力次第で恋愛関係に発展するなら、それは凄く羨ましいんだが。
 俺だって、努力して琴音に振り向いてもらえるならとっくにそうしてる。
 だけど、どうしようもないじゃないか。
 俺には努力したくてもできないんだから。

 一番近くにいて、誰よりも信頼されて、護るだけ。

「……俺は姫を守る騎士かってーの……」
 例え身分違いの恋だとしても。
 想いを告げられるだけマシだろう。
 そうしてそれが、実は両想いなのに叶わぬ恋だというのなら。
 俺なら迷わず、その手を取って逃げるね。

 だけど実際は。
 想いを告げたとしても、琴音の本心を聞く事も叶わないまま、玉砕するんだろう。

 俺には確信がある。
 例え、本当に好きなヤツから告白されたとしても。
 琴音は本心を絶対に誰にも話さない。
 そうしてきっと、一人で泣くんだ。
 相手が、俺じゃない誰かだとしても。
 俺にも話さずに。
 ……もしかしたらもう、そういう事があったかもしれない。
 だけど琴音は表に出さないから。
 俺は気付かない。気付けない。

「弓近?」
「っ!?」
 一人で考え込んで手が止まっていたのだろう。琴音が心配そうに傍に来ていた。
「弓近、お前さっきからおかしいぞ?本当に大丈夫か?」
「……平気だよ。城の外観考えてて……」
「……それ、さっきも言ってたぞ?気分悪いなら無理するな。ほら、宿に戻ろう」
「え、ちょ……!」
 琴音は俺の手を掴むと、強引に宿へと引っ張って行く。
「悪い!弓近、気分悪いみたいだから私達は宿に戻るから!」
「……分かりました」
「気ぃ付けてー」
「お、お大事にっ」


 三人に見送られて宿に戻ると、タオルを枕代わりに横にさせられた。
「琴音……俺は別に平気だぞ?」
「暑さにやられたんだろ。いいから横になってろ。今、水をもらってくるから」
「あー……別にいいのに」
 水を貰いに行ってしまった琴音の後姿を見送って、俺は目を腕で覆う。
「考えすぎで、心配掛けたみたいだな……」

 いつもより一緒にいる時間が長いから。
 それは俺よりも、他の三人の方がより感じる事だろう。
 俺はクラスでも一緒だし。
 だけどあいつらは……太陽は違う。
 いつもより琴音と一緒にいる時間が長いから。
 琴音の色んな面を知って、心が動いてもおかしくない。
 過去の生徒会メンバーにも、そういう輩が実際にいた訳だし。
 というか。
「いつもなら彼女持ちか片思い中のヤツ入れるのに……なんで今回は……」

 面白そうだからと、名前で決めた。
 特技は、たまたまで。
 もしかして……。

「一緒にいたいから……?」
「何がだ?」
「こ、琴音っ!」
 気付けば入り口の所に、コップと水の入った容器を持った琴音がいて。
「何の話だ?一緒にいたいって」
「いや、別に……」
 俺が口を濁すと、琴音はとんでもない事を言い出した。
「……何だ。……好きな相手でも、できたのか……?」
「違う!」
 琴音にだけはそんな誤解、して欲しくない。
 例えこの想いを口にできなくても。
「……太陽を、生徒会に入れた動機だ。あいつ、彼女いるのか?」
「そういう事、か……私が、太陽と一緒にいたいから入れたと、本気でそう思っているのか……?」
「……っ!」
 そう言った琴音のその表情は、今にも泣きそうで。
 だけど俺は、すぐに否定の言葉が出なかった。
「……あいつを入れたのは、星を引き込む為だ」
「……」
「ただそれだけだ。信じて欲しい……」
「琴音……」
 琴音は他人の恋心を応援してやる事が多い。
 それはきっと、自分は恋をしないと宣言したから。
 だから今回も、満月ちゃんの為にきっかけを作ってあげた。
 ただそれだけ。

 だけどそれを俺に信じて欲しいって、何でだ?
 誤解されたくないって事か?
 それは……一番近くにいる俺に、宣言を破ったと思われたくないから?

「……信じる。琴音は嘘は言わないからな」
「ありがとう、弓近」

 琴音は嘘を言わない。自分の言葉には責任を持つ、誠実な人間。