八月に入ってお盆の時期になると、毎年俺は家族で田舎の爺ちゃん(父方)家に顔を見せに行く事になっている。
 それはいいのだが。

 何故か今年は琴音も一緒に行く事になって。


 事の始まりは帰省する少し前の事だった。
「えー?お義姉さんのトコ、今年は来ないの?」
 そう言ったのは俺の母親だ。

 ちなみに俺の父親の兄弟は兄が一人、姉が一人、弟が二人。
 兄夫婦は爺ちゃんの農業を継いで。子供は男二人。
 姉夫婦のトコは女二人。
 上の弟夫婦のトコは男三人。
 下の弟は結婚していない。
 で、ウチは俺一人。
 つまり。
 帰省すると男の方が圧倒的に多くなる。

「仕方ないだろう。姉さんトコの上の子は、もうすぐ子供が生まれるんだから」
「それは分かってるけど……ただでさえ育ち盛りの男の子が大勢いるのよ?食事の用意が大変じゃない」
 母さんがそう文句を言うと、父さんは何も言えなくなる。
 男連中は基本、食べて飲んで騒ぐだけだもんな。
「弓近は義弟さんトコの子供達の相手しなくちゃいけないし、お義兄さんのトコは皆、農業の手伝いでしょ?困ったわ」

 ……そう。何気に俺は、小さい従弟達の相手役に決まっている。
 一緒に遊んだり、宿題を見てやったりするのだが、男三人相手では年々手に負えなくなってきているんだが。

「……そうだ。ねぇ弓近」
 何か名案を思い付いたというような様子の母親に、何だか嫌な予感がする。
 そしてそれは、見事的中した。

「ダメ元でいいから、琴音ちゃん誘ってくれない〜?」

「……一応聞こう。何でそこで琴音が出てくる」
「だって〜。琴音ちゃんなら家事とかも得意でしょ?レトとニーニャも琴音ちゃんに懐いてるし……」
「それは、まぁ……」

 基本的に。
 レトとニーニャはあまり車で出掛けるのが好きではないらしく、車に乗るといつも鳴きまくって煩い。
 だからと言って、数日間家を空けるのに置き去りにはできないし、ペットホテルという手もあるが、それは高い。
 琴音に頼みたい所だが、彼女の母親は動物アレルギーだから預ける事もできないし……。
 だから結局は連れて行くしかないのだが、車の中で喚かれっぱなしでは精神的に参るんだ。これが。

「そりゃあ、琴音ちゃんも家族で出掛けるなら仕方ないけど……ね、お願い!」
 手を合わせてそう頼み込まれて。

 ……確かに、琴音と一緒にどこかに出掛けられるなら俺は嬉しいぞ?
 だけど手伝い要員で連れて行くっていうのはどうなんだ。
 そりゃあ、琴音が俺の婚約者とかっていうなら話は別だけど……。
 婚約者……自分で言ってて虚しくなるなぁ……。

「……琴音が出掛ける用事がなくて、手伝い要員でもいいって言ったらな」
「本当!?助かるわ〜」
「まだOKした訳じゃないだろっ!」


 そうして俺は、琴音の家へ。
 電話でも良かったんだが、やっぱりちょっとでも逢って、顔見て話したいし。
「――という訳なんだけど……断っていいからな?母親に頼まれた手前、一応聞きに来ただけだし」
「いいぞ、行っても」
「やっぱりそうだよな、行く訳……え、今何て……」
 てっきり断ると思っていただけに、俺は思わず聞き返した。
「行ってもいい、と言ったんだ。楽しそうだしな」
「で、でも、本当に手伝いするだけだぞ?色んなトコに案内も出来ないし……というか、田舎だから何にもないんだけど……」
「……弓近は、私が行くのは迷惑か……?」
 そう言って表情を曇らせた琴音に、俺は思い切り首を横に振る。
「い、いや、全然!迷惑なんかじゃない!むしろ嬉……いや、その……」
「ならいいだろう?」
「……おう」
 俺がそう返事をすると、琴音はニッコリと笑った。


 家に帰って、琴音がOKしたと伝えれば、母親は物凄く喜んで。
「よくやったわ、弓近!っていうか琴音ちゃん、本当にいい子よねぇ〜」
 そう言って鼻歌まで歌いだしそうな雰囲気だった。


 こうして予想外に琴音も一緒に田舎に行く事になって。
 ……どうなるんだ、一体。