それからの俺は大変だった。
 集まってきた親戚にからかわれ、ひやかされ、しかも案の定、琴音の周りは従兄弟共が固めてやがる。
 そうかと思えば、台所に拉致られたり。
 ……や、それは普通か。元々母親が手伝い要員で呼んだわけだから。


 そうして夕食時。
 大人達は酒も入って、盛り上がる。
「もう。近君、本当にいい子捕まえたわよね〜。若いのに包丁の扱いもしっかりしてるし、お茶の淹れ方も上手いし、いっその事、ウチのお嫁に欲しいわ〜」
「ねぇ?その上美人だし……言う事ないじゃない。羨ましいわぁ」
「あら〜運が良かったのよぉ。琴音ちゃんが幼馴染じゃなかったら……」
「でも本当、今時の若い子には中々いないだろう、あんな器量良しは」
「大和撫子っていう言葉がピッタリくるよなぁ」

 ……騙してごめん、伯父さん達。
 そして抜け抜けと何言ってやがる、母親。

「そんで?近のひ孫の顔はいつ見れるんじゃ?」

 爺ちゃんっ!いくらなんでも気が早すぎだ。というか……マジでゴメン、期待に添えそうにない……。

 そうしてその一方で。
「ねぇねぇ琴音ちゃん、お酒はいける口?」
「ってかさ、近はやめてどう?農家に嫁ぐ気はない?琴音ちゃんなら大歓迎!」
「何言ってんだよー。今は年下の方が人気なんだぜ?なぁ、近兄よりも俺の方がお薦めだぜ!」
「あ、ずりー!俺も俺も!」
「琴音ちゃん、帰る時に一緒にウチにおいでよー」

 おい、兄ちゃん。まず琴音は未成年だ。酒を勧めるなっ!
 もう一人っ!プロポーズまがいの事してんじゃねぇっ!
 そうしてガキ共っ!どんな根拠で年下押してんだ!?てか連れ帰ろうとするんじゃねぇ!

 それにそもそもだな。
「琴音が困ってるだろーが!いい加減、離れやがれ!ほら、散れ散れっ」
「おー彼氏のご登場ーってか?」
「ひゅーひゅー」
「なぁなぁ近兄ー。琴音ちゃん俺達に頂戴ー?」
「モノじゃねぇっ!」
「なんだよ、ケチー」
 あー……このままここにいたら、埒があかない。
「……琴音、行くぞ」
 そう言って俺は、琴音の手を取ってその場から離れた。
 後ろから野次が飛ぶのが聞こえるが、ここは敢えてスルーだ。


 皆から離れた所で、縁側に並んで腰掛ける。
「ごめんな、何か色々……」
「……いや?中々経験できない事だからな。楽しい」
「そっか」
 暫く無言で座っていると、琴音が感嘆の声を上げた。
「わ…ぁ!凄いぞ、弓近。見てみろ!」
 琴音が指差す夜空を見上げると、そこには満天の星空。
「綺麗だな……中々見られないぞ、こんな星空は」
「ま、田舎だからな。明かりが少ないって事もあるんだろうけど……」
「……生徒会の夏合宿で行く所よりも、星が綺麗に見える気がする」
「ははっ。こっちの方がより田舎だからな。冬だともっと綺麗だぞ?空気も澄んでて」
「いいな。見てみたい」
 穏やかに微笑む琴音に、俺はドキッとする。

 遠くで賑わう親戚の声が聞こえるが、基本的に周りには虫の声だけだ。
 そんな中で、二人で静かに夜空を見上げていて。
 これはかなり、ロマンチックな雰囲気では!?
 一応、今なら恋人同士なんだし……。
 ……いや、ダメだろ。あくまでも“仮”だ。
 本当の恋人同士じゃない。

「弓近」
「な、何だ?」
 急に声を掛けられて、俺は慌てる。
 ……考えてる事、バレた訳じゃない、よな?
 そんな風に考えていると、琴音は笑顔で言う。
「明日、この近くの神社でお祭りがあるんだろう?さっき、皆から聞いた。一緒に行こう?」
「あー……あそこのお祭り、明日だったのか……そうだな。一緒に行こうか」
「楽しみだなっ」
 そう言って、琴音は満面の笑みを浮べた。

 この季節ならではの風物詩もあるし、明日は琴音のさらに喜んだ顔が見られるかもな。