それは、生徒会での執務中の事だった。
各委員会の委員長を集めて行われた会議後に上がってきた書類に目を通していると、いくつか不備を見つけた。
誤字脱字はよくある事だが、担当の先生の判が押されていない物が混じっていた。
「これでは次の議会で取り上げられないな……」
一応、議会で取り上げる議題は担当の先生の承認が前提条件だ。予算の都合などもあるからな。
まぁ、内容自体はきちんとした物だし、ただ単に判の押し忘れも考えられる。
職員室に行って担当の先生を捕まえる方が早そうだ。
そう考えて私はチラと弓近を見る。
今生徒会室にいるのは若竹を除く役員全員だ。彼女はクラスの用事で遅れるらしい。
ここで私が席を外せば、男三人か。
弓近を誘おうかとも考えたが、彼らが交流を深めるいい機会かもしれない。
男だけになれば、どうせ率先して山吹が何かしら話題を出しそうだし。
そう結論を出すと、私はおもむろに立ち上がる。
その事にすぐに弓近が反応した。
「どうした、琴音?」
「ちょっと用事ができてな。職員室に行ってくる。すぐ戻るから」
「おう」
「行ってらっしゃーい」
反応を返す弓近・山吹と違い、浅葱は相変わらずの無反応。
その事に内心苦笑しながら、私は職員室へと向かった。
職員室で用事を済ませて。
生徒会室に戻る途中で、若竹と一緒になった。
「あ、会長。遅れて済みません」
「いいよ、若竹。別に謝る事じゃない」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言う所でもないんだがなぁ……とか思いつつ、二人で連れ立って歩く。
すると少しして、若竹が口を開いた。
「あ、あの……一つ、聞いてもいいですか?」
「ん、何だ?」
口篭る若竹に、何かよほど聞きにくい事なのかと首を傾げる。
そんな私の耳に届いた言葉は。
誰にも触れられたくない内容で。
「副会長とは、本当にただの幼馴染なんですか……?」
……全く。引っ込み思案かと思えば核心を突いた質問だな。
「どうしてそんな事を聞く?」
思わず冷たくなってしまった物言いに、若竹は少々ビクッとしながらも答える。
「あ、えっと……私のき、気のせいかも、ですけど……幼馴染っていう雰囲気に、見えなかったっていうか……」
自信がなさそうにオドオドしながら、それでも並べられる的確な言葉。
やはり。彼女には本能的な所で勘付かれていたらしい。
弓近はどうだか知らないが、私はあいつをただの幼馴染としては見れない。
普段は上手く隠し通しているつもりだが……恋する乙女の勘、という所か?
だが、今ならごまかせそうだな。
「……そういう若竹はどうなんだ?」
「え……私、ですか?」
「浅葱星の事だ」
「っ!」
浅葱の名を出した途端、若竹は目に見えて真っ赤になる。
「傍から見てて、随分分かり易い反応をするな、若竹は」
「え、え!?そ、そんなに分かり易いですか……?じゃ、じゃあもしかして、浅葱君は気付いて……!?」
頭から湯気でも出しそうな勢いで慌てる若竹に、私はフッと苦笑する。
いいなぁ。
素直に自分の気持ちを表に出せて。
羨ましい。
「大丈夫だ、若竹。浅葱はどうもそういう事に疎いみたいだからな」
「そ、そうですか……」
今度は逆に気落ちする若竹に、私は言う。
「ま、これから半年は一緒なんだ。その間に頑張ればいいさ」
「……はい」
そうして生徒会室の前まで来てふと考える。
半年後。
一体、どうなっているのだろうか?と。