本格的に新メンバーで生徒会を始動する初日。
改めて自己紹介を行う。
今までは、それぞれ前任者に付きっ切りで業務の引継ぎに専念していたし、お互いの認識の為にも改めてし直しておいた方がいいだろう。
「さて、それじゃあ各自自己紹介を。まずは私から……といっても、生徒会メンバーの勧誘時に顔を合わせているがな。生徒会長月羽矢琴音だ。よろしく」
そう言って、弓近に次を促すように視線を向ける。
「同じく、勧誘時に顔は合わせてるよな。生徒会副会長、弦矢弓近だ。分からない事があったら聞いてくれ」
弓近はそう言うと、私と同じように今度は若竹に次を促す。
「え、えと、次は私ですね。書紀の若竹満月です。よ、よろしくお願いしますっ」
ぺこりと頭を下げた若竹は、少し緊張した面持ちで。
可愛らしい、とは彼女のような女の子の為にある言葉なんだろうなとつくづく思う。
ま、彼女の場合は浅葱の前だから余計にそう見えるんだろう。
恋する女の子は、傍から見れば皆可愛らしいものだから。
「ほんなら次は俺やな。同じく書紀の山吹太陽いいます。特に満月ちゃん、同じ役職やし、よろしゅうな」
……山吹は少しデリカシーというか、女の子に対する配慮に欠けるな。
若竹みたいな子にそんな馴れ馴れしく声を掛けるなんて……彼女、少し戸惑ってるじゃないか。
「え、あ、あの……よろしく」
案の定、若竹は小声でおどおどしたような態度だし。
この場で指摘するのもなんだから、山吹には後で言っておいた方がいいか?
だが、若竹も人見知りするのを少しは改善してもらわないと。
二人を足して二で割ると、ちょうどよくなるんだろうな。
私がそんな風に考えていると、浅葱が自己紹介を始めた。
「会計、浅葱星。よろしく」
……やはり、若竹はもう少し度胸を付けた方がよさそうだな。
浅葱がこの態度じゃ、彼女には望み薄だし。
偶然にも折角作り上げたこの状況。応援してやりたいし。
……というか、もし弓近に心変わりでもされたら、私が嫌だしな。
「それじゃあ自己紹介が終わった所で……」
「一つ質問してもええですか?」
そう言ったのは山吹だ。
「質問?」
「会長はんと副会長はんて、二人付きおうとるんですか?」
山吹の言葉に、私は一瞬固まった。
最近では聞く事のなくなった言葉。
「……弓近は幼馴染だ」
そう、幼馴染。
……改めて口にすると、言い表しようのない気分になる。
昔は時々聞かれていた。
いつも一緒にいたから。
だが、時が経つにつれ、あの宣言も皆の間に浸透すると、誰も言わなくなった。
だからこそ、不意打ちだ。山吹の質問は。
多少の心構えがあれば、ここまで動揺する事はなかったのに。
……誰にも、気付かれていないよな?
すると若竹が驚いたように言う。
「幼馴染、なんですか?私、てっきり……」
「……!」
若竹の言葉に、私は一瞬息を飲む。
だが、ポーカーフェイスには慣れている自信があるし、恐らくは誰も気付いていまい。
やはり、恋する女の子の目を欺くのは難しいのかもしれないな。
知らず知らずの内に弓近を見ている事はあるだろうし、とかく女の勘というやつは侮れないからな。
それにしてもこの反応、もしかして……。
頭の中で三人の資料をざっと思い返してある事に気付く。
「……そうか、全員高等部からの外部生だから知らないのか。私は中等部の時に『誰とも友人以上の関係にはならない』と公言しているんだ」
「誰とも、ですか?」
「そうだ」
「ほな、告白されても全部断ってまうんですか?」
「当たり前だ。そうでなければ自分の発言に対して無責任だろう」
若竹と山吹のそれぞれの問いに、私はいつも通り答える。
「でも……」
それでも何か言いたげな様子の若竹に、私は内心焦りを覚え、それを遮るように口を開く。
「ついでだから、他に質問はあるか?」
若竹には悪いが、引っ込み思案の彼女の口を塞ぐには効果的だ。
とにかく、今この場ではもう何も言わないで欲しかった。
特に、弓近の前では。
すると少しして浅葱が口を開いた。
「……名前は偶然ですか?」
「名前?何ゆうとんねん、星……って、確かに俺らの名前、天体ばっかやなぁ」
浅葱の質問に納得したように言う山吹に、若竹もコクコクと頷いている。
「名前だけじゃないぞ?苗字も全員色の名前だ。まぁ、最終的には個々の能力で選んだから大丈夫だぞ」
あっさりと私がそう告げると、三人は驚きを通り越して半ば呆れているようだ。
ま、理由が理由だし、その反応も仕方ないか。
だが個々の能力を買っているのも事実だ。
「他に質問がないなら、そろそろ仕事を始めようか」
その言葉を合図に、ようやく生徒会としての活動が始まった。
何はともあれ、半年はこのメンバー。
これが吉と出るか凶と出るか……今はまだ分からない。