弓近と二人で、三人に簡単に砂の城の作り方を教える。
 すると太陽がある提案をした。
「やっぱり、個人戦にしません?ただ、それやと満月ちゃんにハンデあるし、星もサボるかもしれへん。せやから、そこだけペアっちゅー事で」
「えっ!?」
 当然満月は慌てるが、本当にナイスな提案だ、太陽。
 半ば強引に機会を作ってやらないと、いつまで経っても満月と星の距離は縮まりそうにないからな。
「そうだな。私も弓近も経験者だから別に大丈夫だし、太陽が一人でいいならその方が対等かもしれないな。弓近はそれでいいか?」
 そう言いながら、弓近に同意を求める。
 ここで弓近も賛成すれば、二人は断れないだろうし。
「俺は問題ないぜ?じゃあそういう事で、ちゃんと協力して作れよ、星」
 私の意図を理解したのか、弓近は苦笑しながらそう言う。
 弓近なら分かってくれると思った。
「……はい」
「え、えっ?」
「制限時間は一時間、といった所か。じゃあ始め!」
 満月は戸惑っていたが、反論する暇は与えずに砂の城作りをスタートさせる。
 ……というか、ここで肝心の満月が怖気付いては意味がないからな。


 自分のを作りながら、全員の様子をそれとなく観察する。
 取り敢えず太陽は……水を含ませすぎじゃないか?あれでは泥遊びになってしまうだろうに。
 満月と星のペアはと……それなりに上手く協力して作っているようだな。
 なかなかどうして、いい雰囲気じゃないか。
 今後、上手い具合に発展させられればひょっとするんじゃないか?
 
 そうして弓近を見てみると。
 何だか様子がおかしかった。
 先程と同じ表情。手も止まっている。
 何かあったのか?具合でも悪い?

 気になりだしたらキリがない。
 心配で心配で、いてもたってもいられなくて。
 傍に行って声を掛ける。
「弓近?」
「っ!?」
 私が声を掛けると、弓近は驚いたようだった。
 私が傍に来たのも気付かない程、具合が悪いのか?
「弓近、お前さっきからおかしいぞ?本当に大丈夫か?」
「……平気だよ。城の外観考えてて……」
 弓近はそう言って笑うが。
 顔色もさほど悪いようには見えないが。
 それでも、お前に何かあってからじゃ遅い。
「……それ、さっきも言ってたぞ?気分悪いなら無理するな。ほら、宿に戻ろう」
「え、ちょ……!」
 私は弓近の手を掴み、半ば強引に宿へと引っ張っていく。
 こうでもしなければ、弓近は皆に気を遣って休もうとしないだろうと考えて。
「悪い!弓近、気分悪いみたいだから私達は宿に戻るから!」
「……分かりました」
「気ぃ付けてー」
「お、お大事にっ」


 宿に戻ると、タオルを枕代わりに弓近を横にさせて。
「琴音……俺は別に平気だぞ?」
 まだそう言う弓近に、私は内心呆れる。
「暑さにやられたんだろ。いいから横になってろ。今、水をもらってくるから」
 そうして宿の人に水を貰う為、調理場に行く。

「すみません。連れが暑さにやられたみたいで、お水を頂けませんか?」
「あら、それは大変ね。ちゃんと水分は取らないと」
 そう言って宿の人は、コップと水の入った容器を渡してくれた。
「一気に全部じゃなくて、少しずつ時間を置いて飲ませるといいわ」
「はい。ありがとうございます」
 お礼を言って、急いで弓近の元へ戻る。

 部屋に入ると、弓近は腕で目を覆っていて。
「一緒にいたいから……?」
 そう呟いた。
「何がだ?」
「こ、琴音っ!」
 声を掛ければ、慌てたような弓近の態度。
 一体……?
「何の話だ?一緒にいたいって」
 何でもない風を装って、そう聞くが。
「いや、別に……」
 弓近は口を濁し、ハッキリと言おうとしない。
 もしかして、さっきの言葉は。
 自分の気持ちを確かめていた、とか……?
 一緒にいたいって。
 もしかして、その相手について悩んでいた?
 それは、つまり。
「……何だ。……好きな相手でも、できたのか……?」

 口にするのは嫌だった。
 それでも、私には弓近を縛り付ける権利などないから。
 弓近に好きな相手ができたのだとしたら、笑って応援しないと。

「違う!」
 だがすぐに弓近は強くそう否定して。

 どうしてそう、必死そうなんだ?
 それじゃあ。
 まるで。

 私に誤解されたくないと言っているみたいだ。

 そう喜んだのも束の間。
 弓近の口から発せられた言葉は、一転、私をどん底に突き落とした。
「……太陽を、生徒会に入れた動機だ。あいつ、彼女いるのか?」
 それはつまり。
「そういう事、か……私が、太陽と一緒にいたいから入れたと、本気でそう思っているのか……?」

 他でもない弓近に、そう思われるとは思わなかった。
 私が好きなのは、お前だけなのに。
 そんな誤解、して欲しくない。

「……あいつを入れたのは、星を引き込む為だ」
「……」
「ただそれだけだ。信じて欲しい……」
「琴音……」

 お願い、信じて。
 弓近にそんな誤解されたままなんて、耐えられない。
 決して告げる事のできない想いだけど。
 それでも、私が想うのは世界でただ一人だけ。

「……信じる。琴音は嘘は言わないからな」
「ありがとう、弓近」


 本当に。
 この想いが告げられたら、どんなにいいか。
 そうしたら、誤解なんて絶対にされないのに。