暫くして、三人が宿に戻ってきた。
やはり、弓近の事が心配だったのだろう。
「あの、大丈夫でしたか……?」
「日射病とか、熱中症とかやったんですか?」
「無理しない方がいいです」
起き上がっている弓近を見て、心配そうに口々にそう言って。
全く弓近は……気を遣って、かえって皆に迷惑を掛けてるじゃないか。
「大丈夫だって、平気だ。ちょっと琴音が大袈裟すぎたんだよ」
「何を言う。先に戻って正解だったろう」
「まぁ、それは……」
今回の場合、体調不良じゃなかったからいいようなものの。
まぁ、悩み事とかも、溜め込みすぎれば体調に影響が出る事もあるし、侮れないが。
「ほら、皆に心配を掛けたんだ。謝った方がいいだろう?」
「……そうだな。悪い、心配掛けて」
「ええですよ、そんな」
「はい。大した事ないなら」
「安心です」
三人に心配を掛けた事に弓近は少しだけ苦笑すると、私に言う。
「じゃあ、砂の城の出来でも見に行くか、琴音」
「そうだな。どんなのができたのか楽しみだ」
あそこから一体、どんなモノを作り上げたのか……。
そう思っていると、太陽と満月が慌てた様子を見せる。
「わ、わざわざ見る程のモンでもないですって!」
「そ、そうですよ。それに弓近先輩、動いて平気なんですかっ?」
……きちんとした物は完成してないとみえるな。
そう思った所で、星がボソッと言った。
「城というかあれは、ただの砂山……」
「言うなや、星!」
「なんだ、きちんとした形になっていないのか?」
思った通りの答えに、思わず笑ってしまう。
「水の加減が難しくて……」
恥ずかしそうにそう言った満月に同意するように、太陽も言い訳をする。
「そうそう、なんやすぐ崩れてまうっちゅーか……」
……太陽の場合、崩れるんじゃなくて、固まらないの間違いじゃないのか?
「そもそも太陽は繊細な作業に向いてない」
「お前は一言余計や!」
その太陽と星のやり取りに、私と弓近は笑った。
夜になって花火をして。
一番はしゃいでいたのは太陽だ。勿論、周りも気遣っていたが。
……今までの生徒会合宿で一番楽しい思い出になった。
そうして就寝時。
男女で部屋分けをする為、必然的に私は満月と二人だ。
部屋を暗くして、布団に入ってから少し話をする。
「満月。初めての合宿はどうだった?」
「はい、凄く楽しかったです」
「そうか、それは良かった。それで、星とは?」
「えっ!?」
「折角二人一緒に作業する機会があったんだ。何か進展はなかったのか?」
「し、進展なんてとんでもないっ!私は、もう一緒にいられるだけで幸せで……」
暗くても、真っ赤になっていると簡単に予想できる満月に、私は苦笑する。
……一緒にいられるだけで幸せ、か。
確かに、今現在だけを見るならば、それでいいだろう。
だけど、私は……。
私は、定まった未来を見過ぎなんだろうか?
一瞬先なんて、どうなるかなんて誰も分からないのに。
それならば。
“今”だけを見ていれば、こんなに苦しまなくてもいいのだろうか?
「琴音先輩?寝ちゃいましたか……?」
「……いや」
「……黙ってしまったから、寝ちゃったのかと思いました」
「ん……なに、満月はもう少し欲を出した方がいいんじゃないかと思って」
「欲……ですか?」
「例えば、星と恋人になりたい、とか」
「こここ恋人ですかっっっ!?」
慌てて思わず飛び起きたような様子の満月に、またも私は苦笑する。
「ははっ。まぁ一緒にいる時間が長くなればなる程、そう思うようになるだろうな」
「うぅ〜……今はまだそこまで考えられません……一緒にいるだけで緊張しちゃうのに……」
満月はそう言うが、ま、それも時間の問題だろうな。
こうして生徒会合宿は幕を閉じる訳なのだが。
……卒業までの間に、私の未来は何か変化をするのだろうか?
漠然としたその思いに、何だか泣きそうになった。