弓近の事が好きだと自覚して、私はすぐにあの宣言を後悔した。
今更、取り消す事はできないし、そんな無責任な事はしたくない。
自分で他人と距離をとっておきながら、“好きな人が出来たので宣言取り止めます”だなんてただのエゴだ。
一度口にした事を安易に取り消すようでは、その内誰にも信用されなくなるだろうし。
そうして月日は流れて現在高校三年生。
幸か不幸か、弓近は今も変わらず隣に居続けてくれている。
私と同じように、誰とも友達以上の関係にはならずに。
それよりも問題は。
あの宣言以降も、私に告白をしてくる輩が絶えないという事だ。
決して応じる事はできないのにも関わらず。
まぁ、例えあの宣言が無効になったとしても、現在はもう一つ別の理由があるのだが。
取り敢えずの対応策としては、まず告白の呼び出しには一切応じない事。
手紙の場合は一応中身を読んで、呼び出し場所や時間に関係なく、直接本人に用件を聞きに行く事。
名前の書いていないものに関しては、完全に無視。
直接の呼び出しに関しても同様で。
基本的に、私が校内を一人で歩く事はない。何故なら、常に誰かが周りにいる状態だからだ。
しかも幼馴染という点や、生徒会役員という点で、特に弓近と一緒に行動する事が多い。
それなのに時々いるんだ。公衆の面前で堂々と告白をしてくるやつが。
「月羽矢。ちょっといいか?」
「何だ?」
「いや、ここじゃ、その」
「皆の前で言えないような事か?告白以外なら応じるぞ」
大抵はここで怯んで、帰る者が多い。
だが。
「好きなんだ。お前が公言している事については知ってる。だけど、どうしても好きなんだ。俺じゃ、ダメか?」
これで何人目だろうか?
公衆の面前という事を臆する事もなく告白してきたやつは。
ま、その度胸は認めるが……。
私は口を開く。いつものように。
「悪いな。私は自分の発言をなかった事にしたくはないんだ。無責任な事はしたくないからな」
この言葉を言う時、いつも思う。
私の気持ちも、立場も、何も知らないで、何も考えないで、ただ自分の都合だけで告白してきて。
そうできる事が羨ましい。
その無神経さが腹立たしい。
そうして何よりも、悔しい。
私には何もできないのに。
弓近に告白する事も、自分で将来の伴侶を選ぶ事も、何も……っ!
それに。
何より、弓近に知られるのが、聞かれるのが一番嫌だ。
例え直接言った言葉ではないにせよ。
自分で弓近を遠ざけている気分になるから。
私は誰かに告白されると、弓近を伴って生徒会室に行く事が多い。
「弓近。生徒会室に行くぞ。執務が溜まってる」
「……おう」
本当はすぐにやらなければならない執務などないのだが。
無心で執務をしていると、気持ちが紛れるから。
それに、こういう時は無性に弓近の傍にいたいと、いて欲しいと思う。
その方が落ち着くから。
「なぁ、弓近」
「ん、何だ?」
「悪いな、いつも付き合わせて」
「別に?俺は副会長。会長の補佐だからな」
「そうか……そうだな」
こういう時、弓近は絶対に断らない。
いつも嫌な顔一つせず、私の傍にいてくれて。
弓近だって本当は分かっているハズだ。溜まった執務など無いと。
……どうしてなんだろうか?
私達の関係は、ただの幼馴染だ。
もし。
もしも、弓近がこうして付き合ってくれる理由が。
恋人を作らずに、変わらず傍に居続けてくれる理由が。
私の事を、好きだからだとしたら?
そうしたら両想いだ。
だが、例えそうだとしても、私には宣言以外にその気持ちに応じる事のできない理由がある。
弓近の事を、諦めなければならない理由が。
私が弓近と結ばれる事は、絶対にない。
……私は弓近を自分のエゴで縛り付けてはいないだろうか?
弓近は自分の意思で、幼馴染として傍にいてくれているんだろうか?
それとも、別の理由で……。
答えは、分からない。