基本的に、私を呼び出そうとする輩は大抵が告白なのだが。
 中には別の目的を持った者もいる。

「月羽矢、ちょっと……」
「何だ?」
「情報交換」
 その言葉に、私はすぐに反応する。
 別の目的――それがこの情報交換だからだ。

 男女共に好かれる、というこの立場は、必然的に人よりも多く他人の情報を持っているという事に他ならない。
 幅広い人脈。それは武器にも盾にもなる。
 特に私にとっては、身を守る為の手段にも繋がる事がある。

 だが用心するに越した事はない。
「分かった。弓近、お前も来い」
 別の目的の為に、嘘偽りを口にしている可能性もあるから。

 情報交換自体は、プライバシーに関係する問題だから、当然人気のない所に行く。
 そこでもし、別の目的――実は告白目当てでした、という輩が断られた事に逆上して襲ってこないとも限らないし、待ち伏せの可能性だってある。
 私にも多少は身を守る術の心得はある。が、誰かが傍にいてくれる、というのは心強いものがある。
 そうしてそれは、どうせなら弓近がいい。
 好きな相手に守ってもらう、というのはある意味夢のような出来事だから。

 勿論、情報交換を求めてきた相手は男女問わず、弓近についてきてもらうようにしている。
 ……何故か時々、女子生徒の中にも私に真剣に告白をしてくる者がいるからだ。
 一部、『お姉様〜っ』と呼ぶ者がいる事も多少引っ掛かってはいるのだが……。

 とにかく。
 弓近は、牽制の意味も兼ねている。
 二人きりにならなければ、取り敢えず安全だろうから。


「で?誰の情報が欲しいんだ」

 ここでいう情報交換とは、主に好きな相手の趣味・嗜好・性格・恋人の有無だ。
 それもその人物とある程度親しい仲なら、誰でも知っているような範囲内で。
 それ以外、主にメルアドといった個人情報は、第三者が勝手に他人に教えていいものではないだろう。
 全く気にしない者も中にはいるかもしれないが、普通は迷惑に思うだろうし、もし教えた相手が危険な思考の持ち主だったとしたら、迷惑どころの話ではなくなる。
 そこまで責任を持つ事は私にはできないし、信用問題に繋がる。
 個人の情報の中には、私を信用して、私だけに話してくれた秘密なども勿論あるからだ。

 一通り、話せる範囲での情報を相手に与えた後、交換に私は新たな情報を手に入れる。
 その内容は他の者と重複しているものが多いが、時々新しい情報もある。
 勿論、後でガセかどうかの裏を取るが。
 何故なら、私の情報を元に告白してカップルになった者が結構いるからだ。

 最初は軽い恋愛相談のつもりで、相手の事を少し教えたのがきっかけだ。
 それがめでたくカップルとなり。
 それを聞きつけた者が私に聞いてくるようになった。
 その内に、いつの間にか学園一の情報屋みたくなってしまったのだが。
 誰かが幸せになるのは、私にとっても嬉しい事なので、それで良しとしておく。

 私には、私自身を幸せにする事は出来ないから。


 情報交換が終わった後で、私は弓近に言う。
「弓近。毎回付き合わせてすまないな」
「いや、いいって。それよりアイツ、上手くいくといいな」
 優しい笑顔でそう言う弓近は、本当にお人好しだ。

 私が情報交換で弓近を連れて行く理由はもう一つある。
 同じ場にいて、弓近も自然と私と同じ情報を知っている。
 だが弓近はそれを他人に口外する事を決してしない。
 その口の堅さを、私は信頼しているのだ。
 それに。
 私が唯一二人きりになっても気にならないのは、結局の所、弓近だけなんだ。
 弓近だけは絶対に私を裏切らないし、例えもし、弓近に何かをされても。
 多分私はそれを許してしまうだろう。

 それ程までに、弓近の事が好きだから。