「やっぱり、縁日の出店はどこも似たような感じなんだな」
 神社の境内に並ぶ屋台は、地域が変わってもさほど変わりはないようだ。
 時折目新しいモノがあったりもするが、結局は定番の屋台が残るのだろう。
「まぁな。でもさ、こういう時にしか楽しめない物もあるんだし、いいんじゃねぇの?」
「そうだな」
 そうして私達は祭りを楽しむ。

 射的に輪投げ、ヨーヨー釣り。小腹が空いたら、屋台で何か買って食べて。
 そんな風に時間を過ごしていたのだが。
「っ……」
「琴音?どうかしたのか?」
 足元の痛みに、僅かに声を上げて顔を顰めると、すかさず弓近が顔を覗き込んできた。
「いや、ちょっとな……」
 そうして足元に視線を向けると、弓近も視線を向ける。
「……もしかして、下駄?」
 聞かれて頷くと、弓近は人混みから少し離れた木の所に誘導してくれた。

「見せてみろ。……赤くなってるな」

 下駄は特に、履き慣れていない物は靴擦れを起こし易い。
 自分より足の大きい人に履いてもらってからの方がいいと聞いた事があるが……今回は借り物だからな。そういう訳にもいくまい。

「まいったな……この時間じゃ、もうどこも店は開いてないし……」
 弓近はそう呟くと、どうするか色々と考えてくれているようだ。
「そのまま爺ちゃん家まで戻るのは大変だよな。皮が捲れて血が出るかもしれないし……」
 そうして弓近が出した結論は。
「琴音。俺の靴貸すから、それ履いてもう帰ろう」
「……そんな事したら、お前が裸足で帰る事になるだろう?ダメだ」
 そんなの絶対に反対だ。そんな危険な真似はさせられない。
「大丈夫だって、昔はよくこの辺りを裸足で走り回ってたから」
「それは昼間の明るい時だろう。足元が見えない今の時間に裸足で歩くのは危険だ」
 もし尖った石でも踏んだら、怪我をしてしまう。
 すると、弓近はとんでもない提案をしてきた。
「……じゃあ、俺がおんぶするか?」

 浴衣でおんぶ?冗談じゃない。
 浴衣で足なんか広げたら、裾が捲れて凄く恥ずかしいだろう!
 ……その事に弓近は気付いてなさそうだな……。

「……何を言ってる。肩さえ貸してくれれば、それでいい」
「それこそダメだ。それだと靴擦れが酷くなる可能性があるだろう?」
「だが……」
 渋る私に、弓近は三択を強いてきた。

「……じゃあ選べ。俺におんぶされるか、荷物みたいに肩に担がれるか、お姫様抱っこか」

 その三択の中に、このまま歩くという選択肢はないのか、弓近。
 ……まず、荷物みたいに担がれるのは絶対に却下だ。
 やっぱり私も女の子だから。好きな人に荷物扱いされるのは辛い。
 浴衣でおんぶは恥ずかしいからお姫様抱っこ……と言いたい所だが、それはそれで弓近の負担になるだろう。
 帰り道は結構あるし、安定して人を運ぶなら断然おんぶだ。
 だがなぁ……。

 暫く考えた末に私が選んだのはおんぶ。
 まぁ、辺りは暗いし、まだまだ帰り道に人は少なそうだしな。
「ん。じゃあおぶされ」
 おんぶを選ぶと、弓近はすぐに背を向けてしゃがむ。
 だが、私はすぐには行動に移せない。
 だって、恥ずかしいし。
 それに……おんぶしてもらうという事は、身体が密着する訳で……。
 ……弓近は、平気なんだろうか?
「ほら、早く」
 しかし弓近にそう急かされ、私は渋々ながらも俺の背中におぶさった。

 布越しに伝わる体温と、思ったよりも広く、逞しい背中。
 その事にドキドキしながら、私はそっとその背に頬を寄せた。


 帰り道はやはり静かだった。
 思った通り、お祭りはまだ途中なので、道行く人もいない。
 しかもお互いに無言で。
 沈黙に耐えられなくなって、口を開く。
「ゆ、弓近……その……重たく、ないか……?」
「ビール瓶2ケースに比べれば、全然軽い」
「そうか……昨日運ばされてたもんな」
 昨晩の夕食前に、勝手口の脇に置いてあったのを、家の中に運ばされていたのを思い出す。
 ブツブツ文句を言っていたが、ビール瓶2ケースを一気に持ち上げた時は、凄いなと思った。

 そうしてふと気付く。
 弓近が帰り道とは違う道を歩いている事に。
 不慣れな土地の上、夜道とはいえ、方向音痴ではないからな。流石に分かる。
「……おい、弓近?帰る道が違うんじゃないか?」
 そう聞くと弓近は、バレたか、という感じで答える。
「あー……ちょっと寄り道」
「……どこにだ」
「琴音の喜びそうな所」
「本当だな?」
 そう聞くが、弓近は笑うだけで答えなかった。

 全く、何を企んでいるのやら……。