夏休みが終わって二学期になると、生徒会業務は途端に忙しくなる。
秋はイベントの目白押し。
休み明けからすぐに、体育祭・ハロウィン祭・文化祭の準備をほぼ同時進行だ。
一般生徒達は体育祭・文化祭にそれぞれ代表者を出せばいいが、生徒会は違う。
何せ行事関係の最高責任だからな。全ての会議に誰かしらが出席しなくてはならない。
それプラス、ハロウィン祭に関しては完全に生徒会独自の企画。
少ない人数で短期間に業務をこなそうとなると、本当に目の回るような忙しさだ。
その為に、夏合宿で大まかに決めておく、という事が必要だった訳だが……実際に準備が始まると、本当に日々が慌しく過ぎていく。
特に体育祭を終えて、各クラスが本格的に文化祭の準備を始めると、その忙しさは恐らく年間業務の中で最大だろう。
体育祭は基本的に、昨年度の物を使い回せばいいだけだからな。
ただ、文化祭は出し物の関係上、資材の発注や予算がどうのといった事まで絡んでくるから、それを円滑に進める為にも生徒会は動き回らなければならない。
しかも生徒会企画のハロウィン祭が文化祭前日、というのも忙しさに拍車をかけている。
「星は予算見積もりと現在の状況を比較してもう一度見積もりを出してくれ。満月と太陽はそれぞれ資材の発注と各クラスへの伝達。
弓近はハロウィン祭で手伝って下さる各先生方にこれを渡してきてくれ」
「琴音、これなんだ?」
「クイズの暗号と答えだ。それと、各中継ポイントでクリアしてもらう課題、その他諸々だ」
「あーそっか。各クラスからチーム分けのメンバー表が上がってきたのか……チーム数も凄いな」
「ついでに食堂に行って、参加賞のお菓子の内容についても相談してきてくれ」
「おう」
「琴音先輩は?」
「これから文化祭実行委員での会議だ」
「りょーかいです」
「じゃあ俺らも行こか」
各自が自分の担当する仕事を責任を持って行う。生徒会役員がその自覚を持って動かなければ、途端にあちこちから苦情が出かねない。
「……流石にこうも忙しいと、疲れるな……」
会議を終えて生徒会室に戻る道すがら、一人そう呟く。
「まともに話をする間もないな……」
いつもなら隣に弓近がいて。
毎日、他愛無い内容でも色々話をしたりするのだが。
この時期はどうしてもすれ違いが多い。
少ない人数で分担して仕事をしている以上、一緒に行動できない時の方が多くなって。
休み時間でさえ、ゆっくりする事はできない。
……まぁ忙しさを理由にして、呼び出しなどは情報交換でさえも応じない事にしているが。
弓近と一緒に行動できない以上、いつも以上に警戒は必要だ。
それにしても。
こういう時が、一番思い知らされる。
恋人同士ではないという事。
私達はただの幼馴染。
幼馴染とは、所詮その程度の関係。
普段は忘れがちだが、私は無条件に弓近の隣にいられる訳じゃない。
私は、弓近の“特別”じゃないから。
怒涛の準備期間を終え、あっという間にハロウィン祭当日。
講堂から各チームが一斉にスタートしたのを見届けてから、生徒会メンバーはゴール地点にこっそりと移動する。
ゴールがバレては面白味に欠けるからな。
そうして参加者全員に配るかぼちゃのお菓子の詰め合わせの開始だ。
やはり出来立てが一番だろうと考えて。
「しっかし……自分らで言い出した事とはいえ、めっちゃ大変ですやん、コレ……」
「ま、全員でやれば何とかなるだろう。暗号を解いて移動するだけでも大変だろうが、中継地点で出される課題もそれなりに時間が掛かるものだし」
「敷地の端まで、結構あるしな」
「そうですね。でも……私もちょっと参加したかったかも」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけどな。答え知ってちゃつまらないと思うぞ?」
「そうですね」
「何にせよ、一番早いチームでも小一時間はかかるんじゃないか?それまでには終わるだろう」
「袋にお菓子入れて、テープで留めるだけだしな」
そう取り留めのない話をしながら、作業を進めていって。
ものの三十分もすれば、準備は終わってしまった。
「やっと終わった……」
「せやけど、まだ誰もきぃへんなぁ」
「まだ時間掛かるんじゃないのか?」
太陽と星がそう話していると、満月が質問してきた。
「あ、そうだ。これって私達もお菓子貰っていいんですか?」
「そうだな。協力頂いた先生方にも渡す予定で余分に作ってもらったから、多分あると思うぞ」
「やったぁ!」
喜ぶ満月に顔が綻ぶ。
私も食べてみたかったから、余分に作ってもらったのは丁度よかったかもな。
そうして残りの待ち時間をどうしようか考えていた時、太陽が爆弾発言をした。
私と弓近の関係を、決定的に変えてしまう発言を。