念の為、気が変わった者がいないか当たりつつ、三人の中から会長・副会長を選出する場合も考える。

 そうして数日後。
「やはり三人の中から会長と副会長を選出する事にした」
 何の役職をするにせよ、どの道あと二名は確実に選出しなければならないからな。
 選出期限も迫っている事だし、仕方ない。
「そうか。で?誰を据えるんだ?」
「結論から言えば、一番会長向きなのは太陽だな。満月も星も、人前に出るタイプではないからな」
 満月は大人しすぎて消極的な所があるし、星は親しい人間以外は興味がない。
 とても全校生徒を引っ張っていく、という大役には向かない。
「となると副会長は……」
「星だ。数字の得意な奴は簡単に見つかるからな」
 たとえ数字が得意ではなくとも、几帳面できっちりと仕事ができる人物なら務まるだろう。
「そうだな。満月ちゃんが来期も続行すれば、一年分の見本書類が溜まるし。それが目的だろう?」
「ああ。……本当は満月と星で会長・副会長をやってもらえれば、二人の距離も近付くんだろうがな」
 副会長の仕事は主に会長の補佐。
 私と弓近のように、一緒にいる時間が増えればあるいは……と思うんだが。

 その事を残念に思っていると、ふいに思い浮かんだのか弓近が聞いてきた。
「そういえばさ。何で琴音はそこまで満月ちゃんを応援するんだ?」

 何で、か。
 生徒会役員候補をピックアップ中に、満月の想い人が同じ候補に上がっていた星だったのは、確かに偶然だ。
 そうして、実際に満月と接して。
 ……羨ましかったんだ、私は。
 自分の気持ちに純粋でいられる満月が。
 そうして同時に。
 好きな人を見ているだけの彼女に自分を重ねて。
 “想いを相手に伝える”という行為を疑似体験したかったのかもしれない。
 私は弓近に想いを告げられなかったから。

「……満月は自分の想いを積極的に伝えるタイプではないからな。どちらかというと、一人でその想いを大切に抱え込むタイプだ。私とは違う意味で」
 そう言いながら、私は苦笑する。
 流石に弓近に本音を話す訳にはいかないからな。
「きっかけとかがない限り、ずっと相手を見つめてるだけで終わっちゃうタイプ、か」
「そうだ。星が太陽のような人懐っこいタイプならまだしも、あいつは自分に関係ない相手には無関心だからな」
「……それも問題だがな」
 呆れたように言う弓近の気持ちはよく分かる。
 本当に、星は人間関係が希薄だからな。
「星は一年の時はそれなりに騒がれてたみたいだが、あの通りの性格だから、案外モテないし」
「取っ付き難いもんな……根気よくないと付き合えない」
 親しくなるまでが難しいタイプなんだ、星は。
「だろう?ある意味、満月は根気あると思わないか?」
「確かに」
「さ、この話はこの辺りで終わりだ。三人に生徒会役員続行と役職の変更を伝えなくてはな」
「だな」
 そうして私達は、生徒会室に向かった。


 生徒会室にはもう三人とも揃っていた。
「さて、時期生徒会役員について三人に話があるんだが」
「お、もうそんな時期ですか〜。で、メンバーはどないするんですか?」
「先輩達はもう、辞められるんですよね……」
「このメンバーもあと少し、ですか……」
 太陽の表情は明るいが、満月と星は少し暗い。
 やはりメンバーの入れ替わりに、寂しさと不安があるんだろう。
 だがここできちっと気を引き締めさせないとな。
「……そんな顔をするな。私達がいなくなったら、お前達が全校生徒を引っ張っていく事になるんだぞ」
 そう言うと、三人とも少なからず緊張を走らせたようだ。
「取り敢えずお前達三人には、引き続き役員を続投してもらいたいと思っている」
 三人が頷いたのを確認してから、私は話を続ける。
「よし。それに伴って、一部役職の変更がある。太陽」
「はい」
「お前が時期生徒会会長だ」
「……ほんまでっか?俺に?」
 信じられない、という表情だな。
 だが私はそのまま、他の二人にも通達する。
「副会長は星に頼む」
「分かりました」
「満月には引き続き書紀として、主に書類の纏め方を後輩に教えて欲しい」
「……はい」
「残り二人のメンバーは、これから決める。男女一人ずつ、できれば現一年生から選ぼうと思っているが、お前達の推薦はあるか?」
 そこまで言った所で、太陽がようやくハッとしたように、いきなり大声を上げる。
「ちょお待って下さい、琴音先輩っ!何でなんです?ホンマに俺が時期生徒会長でええんですか!?」
「何だ、不満か?」
「そんなんちゃいますって!アイツは?俺らの学年トップの久我!アイツが時期生徒会長なんやないんですか!?」
 ……多少なりとも予想はしていたが、やはりそうくるか。
「落ち着け、太陽。琴音にもちゃんとした考えがあっての事だ」
「弓近先輩……」
 取り敢えず弓近が太陽を宥めてくれた所で、理由を説明する。
 勿論、私の個人的感想は別にして。

「私の為、ですか……?」
「というより、彼を生徒会長に据えるのであれば、役員を全員男にしなければ嫌がらせ等の事態は避けられないだろう。それは生徒会として望ましくない。 男子校じゃあるまいし、生徒の意見を公正に取り入れる為にも女子役員は必要な存在だ」
「せやったんですか……そういう事も考えて、次の役員選ばなアカンのですね」
「そうだな。それで?引き受けてくれるか?」
「勿論!任せといて下さい!」
 太陽の返事にはやる気が感じられて、これはいい傾向だ。

 この様子なら、私達がいなくても生徒会は安泰だな。