十二月に入って、生徒会業務の引継ぎはほぼ終わったといえよう。
本来なら十二月いっぱいを使ってゆっくり教える所だが、流石にそこまでのんびりできないのが現状だ。
何せセンター試験まで残り一ヶ月ちょっとだし、そろそろ受験に本腰入れないと、いくら成績をキープしているとはいえ、そんな冒険はしたくない。
本来なら遅いくらいだ。
だが、夏に高校3年間の総復習をやっておいたし、模試でもA判定は貰っているから、この一ヶ月、集中してやれば十分だろう。
会長職は一番雑務が多いし、何より全体の仕事を把握して指示を出さなければならない重要な仕事。
だから、生徒会の方にはまだ週に一度くらいは顔を出した方がよさそうだが。
太陽のあの性格なら、きっと上手く皆を纏めていけるだろう。
受験勉強は基本的に、弓近と共に図書館でする事にしている。
その方が、調べ物があった時には最良だ。資料ならいくらでもあるからな。
それに、互いの部屋で勉強という選択肢はないに等しい。
弓近の家ではレトと二ーニャがいて遊びたくなるだろうし、私の家ではきっと、弓近が落ち着かないだろう。
実は弓近を自室に招き入れた事は一度もない。
幼い頃は、おもちゃなどの遊び道具を持っていなかったから、というのがその理由で。
年を重ねるにつれ、異性は婚約者だけを部屋に招き入れるべき、と思うようになっていったから。
それは弓近を諦め、自分を戒める為でもあった訳だけれど。
……今度は別の理由で、ダメなんだ。
両想いと分かって。
今まで抑えてきた弓近への気持ちが、今にも溢れ出しそうなんだ。
手を繋いで。髪に触れて。ギュッと抱きしめて欲しい。
触れたい。
触れて欲しい。
直談判の件で、灸を据える為に“大学に受かるまでは幼馴染のまま”と言ったが。
あれは自制の意味でも良かったのかもしれない。
大学に受かれば、いくらでも恋人同士らしい事はできるのだ。
それまでもう少しだけ、勉強に集中する為に二人きりにならない方がいい。
いつものように図書館で勉強していて。
ふと思った事を聞いてみる。
「弓近。お前、試験いくつ受けるんだ?」
「いくつ、って……一応全部」
「ならいい」
大学入試のチャンスは一度だけではない。
大学にもよるが、私達の志望校はセンター試験の他、複回数受験可能の前期日程に、中期・後期試験もある。
中期・後期試験の願書提出前には、センターや前期分の合格通知が届く日程になっていたから、受けなくてもよくなる可能性はあるが。
「琴音は?全部受けるのか?」
「勿論だ。お前が受かって私が落ちたのでは、洒落にならないからな」
確かに私の大学の合否は、弓近に課せられた婚約者になる条件は関係ない。
だけど、折角両想いで進路まで同じなんだ。今までの分、一緒に過ごしたい。
勿論、恋人として。
だから私も頑張るんだ。
そんな調子で冬休みに入っても、ずっとセンター試験対策に過去の問題集をやって。
お正月だけは近所の神社に二人で初詣に行って合格祈願して、御守りを買って、絵馬を書いて、おみくじを引いて。
おみくじはまぁまぁの結果だったので良かった。
それ以外はまたずっと勉強の日々。
勉強自体は嫌いじゃないが……流石に受験が終わったら暫くは勉強したくなくなるな。
そうして迎えたセンター試験の手応えは上々。
自己採点でも目立った間違いはないし、記入ミスがない限りは大丈夫だろうと思える。
「琴音、どうだった?」
「まずまずだな」
「じゃあ次は前期試験に向けての勉強かー」
センター試験から一ヶ月も経たない内に前期試験があるから、今度は志望大学対策の為の勉強に切り替える。
大学によって、出題傾向が違ったりする為、赤本などでひたすら勉強あるのみだ。
「もうすぐ学校も自主登校に入るしな」
「あー……学校行くのも、もうあと少しか」
一月の終わりには学校は自主登校。
二月に入ってすぐ前期試験があって、その結果によって、中期・後期試験を受けるかどうかが変わる。
「……あと少しだな」
「ああ」
二ヵ月後には確実に出ている結果。
天国か地獄か……。
全ては弓近の合否に懸かっている。