それは、五月も半ばの事。
流石に時期的に少し焦りも出てきて、弓近に相談する事にした。
こういう時は一人で考えるよりも、誰かに相談した方がいい考えが思い浮かぶから。
「弓近。ちょっと困った事になったぞ」
「困った事って?」
「時期生徒会メンバーが決まらない」
現在の生徒会メンバーは、主に三年生が中心で。
七月の任期交代で一・二年生にその立場を譲るのが通例だ。
その為に六月までに後任を決めないと、業務の内容指導や引継ぎが間に合わなくなる。
月羽矢学園は基本的には前任者の指名制だから、選ぶのも慎重にならざるを得ないんだが……。
「決まらないって?」
「会長の打診したヤツ全員に断られるんだ。会長が決まらないと他が決められない」
「断られるって、何でだ?」
「現会長である私がいるのに、自分には務まりません、とか言ってたな」
「あぁ……成程……」
何故か納得している弓近に、私は溜息を吐く。
全く、どいつもこいつも。
少しは私の立場も考えて欲しいものだ。
「俺達は今年受験だからなぁ。二年に引き継ぐのが当たり前なのに……」
そう、私達は今年受験なのだ。
いくら、普段から勉強していて模試も志望大学のA判定を常時キープしているといっても……。
そこまで考えて一瞬、何かが引っ掛かった気がした。
「……当たり前、か。そうだな……それが普通だ。私もお前も、昨年の同じ時期に生徒会に入ったんだからな」
弓近にそう言いながら、私は先程引っ掛かった事を思案する。
次に引き継ぐのが当たり前なのは、三年生には受験が控えているからだ。
だが受験は、推薦を狙うのならともかく、一般入試なら試験は年明け。
任期が半年とはいえ、八月は夏休みで生徒会の仕事なんてたかが知れている。
二学期の行事内容で忙殺されるのはどうせ休み明けだ。
夏に受験対策の勉強をしっかりやって、半年の任期終了後に集中して勉強、という手もある。
二年次に一年間生徒会業務をして成績が下がった事はないし、今の状態を維持する自信はある。
それならば、いっそ。
考えを纏め上げた所で、私は念の為弓近に確認をする。
「……弓近。前期生徒会会長を三年生がやってはいけない、という校則はあるか?」
「……ない、と思うが……まさか」
「誰も引き受けてくれないんだから仕方ないだろう?他のメンバーは変えてやらないと可哀相だから、書紀と会計合わせて三人分は探すけどな」
そう言ったら、思い切り弓近にツッコまれた
「ってちょっと待てっ!何気に俺は副会長続行か!?しかも書紀の奴は片方、二年だろーが!」
「私が会長をやるなら、副会長はお前しかいないだろう。それに書紀の二年は……どうやら私に気があるようだ」
書紀の顔を思い出して、自然と憮然とした表情になるのが自分でも分かる。
「でも確か彼女居ただろ。だからメンバーに入れたんだし」
「結構上手くいってたのに、男の方から理由も告げずに一方的に別れた、との情報がある。新しい彼女を作る様子もないし……最近やけに話し掛けられる」
こういう輩が時々いるから困るんだ。
折角、人間関係にヒビを入れたくないからと事前リサーチしてメンバーを選出しているのに。
……そういえば一年次に生徒会に誘われた時に、私狙いの先輩達が他の役員に決まっていたから、その時は前期・後期共に辞退して、結局二年次からいきなり生徒会長をやる羽目になったんだったな。
本当に、何の為の宣言なんだか時々分からなくなる。
そう考えていると、弓近が憮然とした表情で言う。
「……新しいメンバーに変えた方が良さそうだな」
良かった。弓近なら、賛同してくれると思っていた。
そうして私は、一番肝心な事を聞く。
「ああ。で?お前は引き受けてくれるのか?」
できれば、引き受けて欲しい。
成績の方は私と似たようなものなので問題はないハズだが。
無理だというのであれば、私には引き止める権利などないから。
「引き受けるよ。他ならぬお前の頼みだからな」
その言葉に、私はホッとした。
少し苦笑したような、だけどいつも通りの優しい笑み。
「悪いな」
「お前に信頼してもらえるなんて、光栄だよ」
「うん……信頼してる」
弓近は私の頼みを断った事は今まで一度も無い。
私はそれを分かった上で。
信頼、という言葉で逃げ道を奪ってしまっているのかもしれない。
すまない、弓近。
それでも私は、お前と少しでも長く一緒にいたいと、傍にいて欲しいと思っているんだ。
「……んな顔すんな。別に任期が半年延びたからって、受験には影響出ねーように両立させるから」
「……そうだな」
弓近は優しい。
いつも自分の事より、私を気に掛けて。
本当に、お人好しなんだから。
そう思いながら私は、これ以上弓近が気に掛けないよう、笑顔を浮べた。