弓近の家の前に着いて、チャイムを鳴らそうとした時だった。
　丁度、弓近が玄関を開けて出てきたのだ。
　その事に私は、思わず名前を呼ぶ。
「弓近っ！」
　驚いたような弓近の表情。
　それよりも。
「結果は……どうだったんだ？」
　不安を押さえつけながらそう聞くと、弓近はゆっくりと私の傍に来た。
「琴音……」
　そうして正面に立つと、フッと笑みを浮かべた。

「受かってた」

「……っ！」
　静かにそう告げられた結果。
　私の胸中は、一気に喜びと安堵が入り混じった気持ちで溢れかえった。
　同時に、何故だか無性に泣きたくなってくる。
「よかった……っ」
　そんな私を、弓近はそっと抱き締めてくれた。
「弓近、よかった……おめでとう」
「うん、ありがとう。それで琴音は？」
　不安そうにそう聞いてくる弓近を安心させるように、私は笑って言う。
「受かってた。当たり前だろう」
「そっか」
「……春から、また一緒だな」
「そうだな」
　そうして弓近は一度深呼吸をし、私を抱き締めていた体を離すと、真剣な表情で向き合ってきた。
　その事に、私は何だかドキドキしてしまう。
「琴音」
「何だ？」

「……月羽矢琴音さん。世界中の誰よりも、貴女の事を想ってきました。だから、どうか俺と結婚を前提に、お付き合いして頂けませんか……？」

　それは、きちんとした告白の言葉。
　だけど。
「……ダメだ」
　そんな他人行儀な堅苦しい言葉じゃ、嫌だ。

　すると弓近はシュンと項垂れるてしまい、私は苦笑しながら言う。
「そんな言葉じゃダメだ。それでは、私の事をどう想ってきたのかがハッキリと分からない」
「え……？」
　訳が分からない、といった顔をする弓近に、私はやり直しを要求する。
「もう一度。今度は誰が聞いても分かるように、ちゃんとどう想ってきたのか言葉にしろ」
「あ……」
　私の言いたい事をようやく理解したのか、弓近はもう一度深呼吸する。

「……好きだ、琴音」
「……うん」
「俺はまだ、大学に受かっただけで、ちゃんとした婚約者としての資格はないけど」
「……うん」
「それでも頑張るから。だから、ずっと俺の隣にいて欲しい。幼馴染じゃなくて、恋人として」

　凄く、嬉しい。
　弓近自身の、ちゃんとした言葉。
　やっぱりこういう言葉は、本人の正直な気持ちを口にして欲しい。
　その方が、気持ちがちゃんと込められてるのを感じられるから。

「……はい……っ」
　私も気持ちを込めて返事をすると、弓近に再び抱き締められた。

「琴音」
　幸せな気持ちに浸っていた所で名前を呼ばれ、私は弓近に顔を向ける。
「ん。何だ、弓……」
　その瞬間。
　柔らかいモノが唇に触れた。

　その感覚は、すぐに離れていって。
「琴音？」
　それが何なのか理解した途端、顔が真っ赤になるのが分かった。

　今のって。
　弓近との、ファーストキス……。

　恥ずかしくなって、ぼふっと弓近の胸元に顔を埋める。
「……不意打ちなんて卑怯だ……」

　勿論キス自体、するのは初めてだ。
　だから相手が弓近というのは嬉しいけど。
　……事前の心構えぐらい、させて欲しかった。

「悪かったよ。でも、したかったから」
　苦笑しながらそう言う声に、私は何となく悔しくなって、バッと顔を上げるとそのままキスをした。
　その事に、今度は弓近が驚いていて。
「……お返しだ」
　ニッと笑ってそう言うと、弓近はプッと吹き出した。
「まったく……」
「……これからもよろしくな」
「ああ」

　そうして私達は顔を見合わせて微笑み合うと、今度はどちらからともなく、キスを交わした。